どっちもどっちを肝に銘じて

どっちもどっちを肝に銘じて

2019年4月21日付でアップロードされたユーリヤ・ラティニナ記者の記事を読んでみて、「つくづく政治家にはなれないなあ」、あるいは「とんでもない奴らだなあ」と思いました。わたしはモスクワで彼女に三度会ったことがあります。おそらくロシア人ジャーナリストのなかでもっとも優れた人物であると思っています。そんな彼女が書いた記事ですから、その内容は的を射抜いているものと思います。

私はいま『サイバー空間の地政学』(仮題)を出版すべく拙稿をしたためています。そのなかに、つぎのような部分があります。

 

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事件は、民主党の依頼を受けて調査された報告書である、①サイバーセキュリティ会社、クラウドストライク社の報告、②元英国情報機関員のクリストファー・スティールの作成したスティール文書を出発点にしている。これらを受けて、二〇一六年十二月二十九日、国土安全保障省(DHS)と連邦調査局(FBI)は共同分析結果を公表した。ロシアを表す「グリズリー」と草原地帯を示す「ステップ」を合わせた「グリズリー・ステップ:ロシアの悪意あるサイバー活動」というタイトルだった。二〇一五年夏に民主党へのサイバー攻撃を実施したのはAdvanced Persistent Threat (APT) 29という第一グループ、第二グループは二〇一六年春にかかわったAPT28であると指摘されている(この名前は FireEyeという米国のサイバーセキュリティ会社によってつけられたもので、中国人の有名なハッカー集団にはAPT10の名がつけられている)。前者は最初のCrowdStrike報告のなかで実行グループとして名指したCozy BearとFancy Bearにそれぞれ対応している。

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これはさりげない文章ですが、実は、民主党はドナルド・トランプのロシアとの関係について、いわば「探偵」を使って調べさせていました。

ラティニナの記事によれば、②のスティール文書は「まったくの虚偽である」というのです。この文書は、https://www.documentcloud.org/documents/3259984-Trump-Intelligence-Allegations.htmlにアクセスすれば、簡単に入手できます。

2016年6月20日付のメモが最初に出てくるのですが、そこに、いかにもトランプらしい逸話が書かれています。トランプが滞在したリッツカールトン・ホテルのスイートルームで、オバマ大統領夫妻が滞在したその場所、そのベッドにおいて、多数の売春婦に小便をさせてトランプはそれをながめていた――というのです。ホテルはKGBの後継機関である連邦保安局(FSB)の管理下にあり、すべての主要な部屋に録音機や隠しカメラが仕込まれていたとも書かれています。

この話は、いまでは有名な話になっています。トランプなら「真実であろう」と、多くの人が思うでしょう。

しかし、ラティニナによれば、これは「フェイクである」という。ラティニナは「プーチン嫌い」の反プーチンの急先鋒として知られている人物ですから、彼女はトランプの肩をもとうとしているわけではありません。「真実」に近づこうと、ジャーナリスト魂で真実に迫ろうとしているだけです。

 

フェイク文書の陰に民主党

このスティールという、英国の元MI6の職員を雇ったのは、米ワシントンDCにある政治調査会社、Fusin GPSでした。同社は2016年6月、トランプのロシアとの関係を調査するためにスティールを雇ったのです。そして、わずか2週間ほどで、最初のメモを書いたというわけです。ニューヨーク・タイムズが2017年1月11日にアップロードした記事によれば、ヒラリー・クリントンを支援する民主党の顧客がこのためにFusion GPSにカネを支払いはじめたそうです。

その結果、スティールはその「期待」に沿った内容の報告を英国にいたまま、送ってきたというわけです。しかし、そんなことが可能かとラティニナは疑問視しています。

スティールは当然、調査結果をメモにして顧客に渡しました。しかし、後になって、その情報は連邦捜査局(FBI)やNYT記者などに洩れました(自分で漏らしたといったほうがいいかもしれません)。それが、上記のURLで入手可能な35頁の文書です。

もちろん、その内容の真偽が不明確な以上、NYTをはじめとする「まとも」なマスメディアはこの情報をすぐに報道するはありませんでした。しかし、どこの国にも功名心やカネのために動機づけられた輩がいます。2016年10月末、Mother Jonesという雑誌がスティールを匿名にして、トランプのスキャンダルを報道しました。まさに、大統領選の直前です。もちろん、「確認」がとれないままです。つまり、民主党にとってきわめて有利な記事が報道されたわけです。

トランプの大統領当選が決まった後で、2017年1月11日付ウォール・ストリート・ジャーナルはスティールの名前を明らかにしました。これを受けて、CNNが報道し、CNNの部門の一つであるBuzzFeedが35頁の文書をアップロードしたのです。

もちろん、トランプはその内容を全面的に否定しています。ところが、いま現在もこの文書はアップロードされたままであり、公開から2年以上を経てもなお真偽が不明確なまま放置されているのです。

ここでは、ラティニナが、スティール文書が虚偽であると断じる理由についていちいち説明しません。ただ、トランプがCNNの記者に向かって、“You are Fake News”と叫ぶのには理由があると思います。真偽の不明確な、あるいは、虚偽の公算がきわめて大きい情報を公開したCNNの姿勢は批判の対象になって当然という気がします。

 

しっかりしろ、メスメディア

わたしは最近、「ペンタゴン・ペーパーズ」という映画をビデオで観ました。ワシントン・ポストの話ですが、NYTに先を越されながらも、民主主義を守るために、ニクソン大統領と闘った出来事に感動しました。そして、この出来事こそウォーターゲート事件報道につながっていたのだと初めて知りました。

しかし、ここで紹介したように、いま、米国のジャーナリズムもだいぶ弱っているようです。日本のジャーナリズムよりはずっとしっかりしているとは思いますが、共和党も民主党も、政治となると、やり方は「どっちもどっち」です。つまり、「汚い」。それが政治というものなのですね。

真摯なジャーナリズムがなければ、権力者は国家権力を暴走させます。Dishonest Abeという、まったく信頼できない人物が長く首相を務めている日本では、ジャーナリズムの足腰がきわめてもろくなっています。ここに紹介したような情報を紙面に掲げながら、日本のジャーナリズムもしっかり反省してほしいと思います。

日本の場合、とくに政治家がひどすぎます。その結果、政治不信がはなはだしい。わたしは例によって高知市議会議員選挙には行きませんでした。共産党員がトップ当選だったようなので、自民党議員よりもましだと思うのですが、これも「どっちもどっち」だと思ったほうがいい。

汚い政治、汚い政治家をなんとかしなければならないとずっと感じています。そのための一歩として、『民意と政治の断絶はなぜ起きたか』や『なぜ「官僚」は腐敗するのか』といった著作を書いたわけです。

「21世紀龍馬」が革命を起こしてほしいところですが、まあ、わたしの目の黒いうちには無理でしょうね。

 

追伸

ウクライナの大統領選では、このサイトで予想した通り、ゼレンスキーが勝利しました。とはいえ、10月に予定されている議会選後にならなければ、ウクライナの今後の政情は判断できません。もうしばらく様子を見極める必要があると思います。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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