『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』の刊行

6月に、社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行する。このために、しばらくこのサイトへの記事のアップロードをサボっていた。

今回は、この本の「まえがき」と「目次」を紹介する。

 

関心のある方はどうか、読んでほしい。

 

 

まえがき

アメリカ合衆国は「帝国主義」の国である。こう書くと違和感をもつかもしれない。だが、アメリカは事実として、いわゆる帝国主義的ふるまいをつづけている。アメリカだけではない。中国も欧州連合(EU)も、自国および自国に属する企業などの影響力をより強めることで、国家とそれに属する企業の利益拡大をはかっている。こうした動きを意図的に推進する国を「帝国」と呼ぶとすれば、アメリカ、中国、EU、ロシア、日本も帝国であり、帝国主義的なふるまいをしていることになる。

 ただ、この帝国間の「競争」は、旧来の帝国主義的国家間の武力闘争と異なっている。国家による規制において、市場、国家、市民の権利のうち、どこに重点を置くかによって、帝国自体のあり方や、その影響力の拡大に違いが生まれている。たとえば、アメリカという帝国は、自国における自由・民主主義を重視するだけでなく、それを他国に奨励し、他国に介入するというやり方によって自国や自国企業の利益をつなげようとしてきた。そこにあるのは、交易の自由さえあれば、主要生産物の競争や金融資本によって競争に勝利して利益を確保し、当該国に影響をおよぼすことができるという資本の論理だ。だからこそ、帝国主義は他国から主として関税権を奪おうとしてきた。こうしてアメリカは、自国および自国の企業や富豪を儲けさせ、その影響力を世界中に広げてきたのである。まさに、帝国主義を貫くことで、ヘゲモニーという合意に基づく世界統治を一時期、確立することに成功したのだ。

 第一次世界大戦以降から20 世紀末にかけて、ヘゲモニー国家となったアメリカは、以前のヘゲモニー国家イギリスとは異なる帝国主義を実践する。だが、ヘゲモニー国家側が勝手に決めた条件に基づく自由競争を他国に強いるという身勝手な専横はまったく変わっていない。イギリスは「自由主義」に基づく旧来の帝国主義だったが、アメリカは「新自由主義」と呼ばれる「新帝国主義」を展開しているだけの話だ。どちらも帝国主義であることに代わりはない。

 ところが、ヘゲモニー国家としてのアメリカの力が弱まると、アメリカ帝国の本性剥き出しの脅しや強制が露わになる。国家主導の関税引き上げ、補助金による産業政策がとられるようになる。もはや、市場優先の自由競争では、アメリカ企業が勝てない分野が生まれており、国家介入主義が大幅に強まるようになっている。アメリカ帝国主義がだれの目にもはっきりと映る時代を迎えているのだ。

 

 アメリカ帝国主義を批判する

 本書の目的は、アメリカの帝国主義の実態を暴露し、その帝国主義を批判することにある。アメリカの軍門にくだったヨーロッパや日本などの国々では、アメリカが帝国主義の「侵略国家」であるという視線がすっかり忘れられてしまった。アメリカはかつて、「米帝」と呼ばれて蔑まれたこともあったが、事実上同じ帝国主義のソ連の崩壊後、アメリカは名実ともに唯一の超大国として生き残る。その結果、アメリカは、帝国主義的なふるまいが目立つようになる。世界全体のヘゲモニーを握っているかぎりはアメリカ帝国の実態を隠すことは難しくはなかったのである。

 いわゆる「グローバリゼーション」というスローガンのもと、アメリカにとって都合のいい制度を「世界標準」として、アメリカはその帝国主義的側面を隠すことに成功した。世界統治のために世界中で身勝手な行動をとっているにもかかわらず、その影響下にあるヨーロッパ諸国や日本の指導者だけでなく、それらの国々の大多数の政治家、官僚、学者も、もはやアメリカを真正面から批判しようとしなくなる。不偏不党をかこつマスメディアもまた、沈黙や無視によって、アメリカの横暴に見て見ぬふりをつづけてきた。

 アメリカ帝国主義に従属する国の人々は、抑圧・搾取されているにもかかわらず、中国やロシアのような権威主義的な国々だけを「悪の枢軸」として嫌うよう情報操作されている。だが、これは「敵」をつくって、自らの「悪」を隠蔽する手法にすぎない。本書は、アメリカの「悪」を真正面から暴くことで、中国やロシアの「悪」と同じレベルにおいて、アメリカという国家を丸裸にしたいのだ。神に祝福されたかのようにふるまうアメリカの超大国神話を暴き出したいのである。

 

 ウクライナ戦争が教えてくれたアメリカの帝国主義

 本書執筆のきっかけは、ウクライナ戦争であった。2022 年2 月24 日にウクライナへの侵略を開始したロシア連邦のウラジーミル・プーチン大統領を蛇蝎のごとく非難し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領への同情が急速に広がった。しかし、この見方は、本当は、アメリカの帝国主義的ふるまいを隠すための偏った見方にすぎない。戦争が勃発する前の段階で、ウクライナにおいてどんな出来事があったかについて考えたこともないような人々はただ、アメリカ政府や同政府と結託するマスメディアの流す偏った見方に騙されているだけだ。

 その結果、アメリカおよびその同盟国の多額の税金が「ウクライナ支援」という美名のもとに投じられ、多くの軍産複合体を潤している。アメリカのジョー・バイデン大統領はウクライナ戦争の長期化を政治利用して、自らの再選のために役立てようとしている。そう、彼の頭には、即時停戦といった発想そのものが存在せず、ウクライナ国民の生命・財産の保護も最優先事項では決してない。アメリカ大統領に再選することのみが最大の目標なのだ。

 その大統領選に第三の候補として立候補しているロバート・F・ケネディ・ジュニア(父、ロバート・F・ケネディ・シニアは元司法長官、叔父ジョン・F・ケネディは元大統領)は的確なツイートをしている。

 「私はバイデン大統領に二つの謝罪を求める。第一に、米国民を欺き、偽りの口実で醜い代理戦争を支持させたこと。第二に、より重要なことだが、ウクライナ国民に対し、米国の(想像上の)地政学的利益のために、ウクライナをこの戦争に巻き込み、国を破滅させたことを。」

 残念ながら、悲惨な戦闘シーンを見せられると、人間は多数の死傷者を出している側に同情を禁じ得ない。悲惨な動画を観ることで、多くの人々は心を揺さぶられる。2023 年10 月7 日以降、パレスチナのガザ地区での戦闘が広がると、今度はイスラエルの過剰防衛と、死傷するパレスチナの子どもの姿に心を痛めざるをえなくなる。しかし、そんなイスラエルをアメリカが支援しているにもかかわらず、形ばかりのアメリカの人道支援のふりに多くの人々が騙されているように映る。200 万人もの人々を飢餓の危機に置きながら、民間人を殺害しつづけるベンヤミン・ネタニヤフ政権を支援するバイデン政権はネタニヤフとアドルフ・ヒトラーとの違いを説明できるのか。

 こうした世界の出来事の背後にまで目を凝らすと、そこにはアメリカ帝国主義の身勝手な影が見えてくる。しかも、アメリカはウクライナにもイスラエルにも、武器を供与し、武力闘争に加担している。加えて、中東では、イラン政府の支援する勢力に対して、アメリカ軍が直接、武力攻撃をしている。普通に考えれば、アメリカは軍国主義国家であり、帝国主義の延長線上にある「悪の枢軸」といえるだろう(ストックホルム国際平和研究所[SIPRI]によれば、アメリカの2023 年軍事費支出は依然として世界最大であり、第2 位の中国を3.1 倍も上回っている)。

 アメリカはこうした旧来の帝国主義をいまでも保持しながら、同時に経済制裁という脅迫手段によって帝国主義的ふるまいをつづけている。ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始したとき、バイデン政権はウクライナ軍への武器援助だけでなく、対ロ制裁の強化を呼びかけた。アメリカは、対ロ制裁によって、自国だけなく他国およびそれらの国に属する企業がモスクワとの関係を断つことで、経済的苦痛と政治的追放でロシアを罰しようとしたのである。ここには、自国と自国企業優先の帝国主義的ふるまいが隠されている。それにもかかわらず、アメリカに追従するばかりでいては、きっと日本もアメリカと敵対する勢力との戦争に巻き込まれかねない。そのとき、あくまで自国優先のアメリカは、必ずやアメリカに従属する同盟国を平然と裏切るだろう。だからこそ、アメリカを批判しつつ、アメリカと一定の距離を保つ必要性があることを少しでも多くの人に理解してほしいと思う。

 

 本書の構成

 本書の序章では、ヘゲモニー国家アメリカに関する基礎知識を提供する。同時に、アメリカの帝国主義についての理解を深めるための情報を明らかにしたい。こうした基礎知識を前提として、第一章では、ウクライナにおいて、戦争がはじまる前から、アメリカがどのような帝国主義的ふるまいをしてきたかについて説明する。とくに、ジョー・バイデン父子がウクライナでの金儲けにかかわってきた実態などを紹介することで、アメリカ帝国主義の実情について明らかにしたい。「ウクライナ支援」を大義名分としながら、実はその支援をアメリカ国内への「投資」に回すことに血道をあげているバイデン大統領政権について解説し、ウクライナ政府の陰で暗躍してきたアメリカについて俎上にあげる。それを知れば、アメリカの帝国主義的ふるまいの「現実」が理解できるはずだ。

 第二章では、エネルギー部門におけるアメリカ帝国主義について考察する。ドナルド・トランプ政権は2019 年11 月、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱を国連に正式通告した。これに対して、バイデン政権は2021 年1 月、パリ協定への復帰を決定、国連に通知し、通知から30 日経過後の2 月19 日に正式に復帰が認められた。この出来事から、バイデン政権が環境保護派に理解を示しているようにみえてくる。だが、バイデンは決して環境保護一辺倒の政治家ではない。むしろ、あくまで自らの権力奪取・維持のために場当たり的な政策をとっているにすぎない。

 第三章では、アメリカ帝国主義の切り札となっている制裁について語る。とくに、制裁対象の当該国ではない、第三国に対しても制裁を科す「二次制裁」の実態を明らかにすることで、アメリカが脅迫によって諸外国を屈服させようとしてきた歴史や実情をわかってほしいと思う。

 第四章は、デジタル空間における帝国主義国家間の競争について考察する。市場主導型の規制モデルを採用するアメリカ、権利主導型規制モデルをとるヨーロッパ、国家主導型の中国がそれぞれどのような帝国主義を展開しているかについて比較検討する。いま現在展開されている帝国主義間の権力闘争について論じたい。

 第五章は、アメリカ支配の栄枯盛衰について考える。この部分を読まなければ、アメリカの唯我独尊的なふるまいを理解することはできまい。結論からいえば、アメリカは、科学を神の近くに祭り上げ、その科学を操り、科学の生み出したテクノロジー(科学技術)を安全性の保証のないままに世界中に広げて、その影響力を維持・拡大している。加えて、「法の上に人を置く」というホッブズ的な社会契約を前提とする英米法を前提に、特権化したテクノロジーを政治利用することで、アメリカは神の後光を背に外交を展開しているのだ。このため、アメリカは自らの外交の失敗を反省しない。神のように無謬であると信じているからだ。

 アメリカは、神に近接した「テクノロジーの上に人を置く」という構図のもとで、「法」と「テクノロジー」による世界支配を実現しているのだ。それを「宣教師的」熱意に基づく外交政策によって世界中を席捲してきた。わかりやすくいえば、いわゆる大航海時代、ポルトガルやスペインの宣教師はキリスト教(カトリック)を布教しつつ、植民地化をはかったが、アメリカは宣教師的熱意によって民主主義の輸出をはかりつつ、英米法とテクノロジーを世界中に広げることで、帝国主義に基づく資本による世界支配をつづけようとしているのだ。

 いわば、「神」の近くに科学を置き、その科学進歩に基づくテクノロジーに依存しつつ、それを法律で保護することで、世界中に害悪を撒き散らしていても、何の反省もないまま、ヘゲモニー国家として君臨しつづけることができる。まさに、神との盟約のもとに、戦争大好きな外交によってねじ伏せる行動をとりつづけることで、反省なき新帝国主義をとりつづけることが可能なのだ。軍国主義国家アメリカをぶっ飛ばすためには、この「法」と「テクノロジー」の上に立つ人、すなわちアメリカ大統領の権力基盤を突き崩す必要がある。その一歩として求められているのは、とにかく、こうした権力のあり方に気づくことではないか。

 第六章では、アメリカの外交戦略を俎上に載せる。アメリカの外交をつまびらかにすることで、その帝国主義的ふるまいに伴う独我論に気づいてほしいのだ。

 終章では、アメリカ帝国主義が隠蔽してきた超大国神話を壊すための議論を展開する。アメリカを特徴づけているキリスト教文明批判、科学やテクノロジーへの信奉への批判を展開することで、アメリカ帝国主義をぶっ飛ばしたい。

 本書は、アメリカ帝国主義を徹底的に批判する視角から書いた地政学の書だ。だからといって、中国やロシアを擁護しているわけでは決してない。日頃、批判の対象となっていないアメリカをあえて批判することで、信じたいことを何となく正しいことのように誤解させる「確証バイアス」に自らが侵されていることに気づいてもらいたいのだ。人間の判断は心理的な影響で多くのバイアスに直面する。その偏見に気づくことで、より真っ当な判断に近づくことができると信じている。

 なお、電子書籍版には、必要部分をタップすれば参考文献に到達できるようにURL を埋め込んである。参考文献まで知りたいという読者はそちらを参考にしてほしい。

 

 

 

帝国主義アメリカの野望

リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ

目次

 

まえがき … …………………………………………………………………… 3

序 章 ヘゲモニー国家アメリカをめぐる物語 ………………………13

  1 ヘゲモニー国家の変遷  14

  2 アメリカの帝国主義  16

  3 帝国主義のいま  22

第1章 ウクライナ戦争とアメリカ帝国主義 ……………………… 27

  1 ウクライナ物語  28

  2 バイデン物語  43

  3 大統領再選のための戦争長期化  53

第2章 エネルギー争奪からみたアメリカ帝国主義 … ………… 69

  1 ガソリンの単位ガロンに込められた唯我独尊  70

  2 石油をめぐるアメリカの戦略  74

  3 ガスパイプラインとLNG の物語  99

第3章 アメリカ帝国主義の切り札:制裁 ………………………… 121

  1 脅迫による経済支配  122

  2 制裁の歴史:二次制裁をめぐって  126

  3 制裁の効果への疑問  149

第4章 デジタル帝国間の競争 ………………………………………… 159

  1 分析のための三つの視角と現状  160

  2 アメリカVS ヨーロッパ  169

  3 アメリカ帝国主義の変質  184

第5章 アメリカ支配の栄枯盛衰 … ………………………………… 207

  1 国際法の変遷とアメリカによる支配  208

  2 アメリカの新自由主義と新帝国主義  217

  3 「法の支配」の怖さ  232

  4 「テクノロジーの支配」  240

    :科学の宗教化からテクノロジーの政治化へ

第6章 アメリカの外交戦略 …………………………………………… 251

  1 あまりに宣教師的  252

  2 民主主義という独我論  259

  3 リベラルデモクラシーの蹉跌  268

終 章 アメリカの超大国神話を壊す … …………………………… 275

  1 キリスト教文明への批判  276

  2 テクノロジーという「嘘」  282

  3 アメリカ帝国主義の内憂外患  294

 あとがき … ………………………………………………………………… 310

 

 

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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