ウクライナ戦争から2年:日本の無知蒙昧を嘆く

2024年2月24日で、ウクライナ戦争勃発から丸2年になる。これを機に、「現代ビジネス」において、「【ウクライナ戦争丸2年】もうホンネの話をしようよ~アメリカの「10の諸悪」」という拙稿をすでに公開した。今回は、戦争それ自体をめぐる視角について紹介したい。

 

バカばかりの日本の「専門家」

すでに、このサイトで公開した拙稿「ソ連時代の「負の遺産」からウクライナ戦争を分析する:プリゴジンの「ワーグナー・グループ」の正体とは?」において、「拙著『復讐としてのウクライナ戦争』の第6章における注(14)において、「私は実際の戦争たる戦闘行為には関心はない」(181頁)と書いておいた」と記した。

この気持ちはいまも変わらない。ただし、日本のテレビに登場する小泉悠や兵頭慎治といった人ははっきりいって、無知蒙昧の類であると思う。私自身、自分が無知蒙昧であると思っているが、ゆえに毎日、ひたすら勉強を重ねている。しかし、彼らをみていると、勉強が足らない。話にならないのである。

 

優れた視角からの研究

本日、Jack Watling, Oleksandr V Danylyuk and Nick ReynoldsによるThe Threat from Russia’s Unconventional Warfare Beyond Ukraine, 2022–24という論文を読んだ。ウクライナ戦争を軍事面から分析した優れた論考である。

どこが優れているかというと、その視角だ。「問題は、ロシアが通常型と非通常型の軍事手段の両方を国力の手段と考えており、それらを組み合わせて適用していることである」という記述が最初に登場する。この視角こそ、重要なのだ。「ワーグナー・グループ」を考察した拙稿でも指摘したように、エフゲニー・プリゴジンが率いていた「ワーグナー・グループ」は連邦保安局(FSB)の管轄下にあった組織であり、本来、非通常型の軍事手段であった。ゆえに、軍の問題とごちゃまぜにして、まったく見当違いの所見をのべていたのが日本の「軍事専門家」であったと感じている。彼らの視角はお門違いであり、そんな視角から、戦争を論じてみても、最初から核心には近づけないのである。

 

鋭い指摘

紹介した論文のなかで、私が鋭いと感じた記述をメモ代わりにここに紹介したい。

「本報告書の主な結論は、ロシアの特殊部隊は、NATO加盟国に戦略的脅威をもたらすいくつかの分野で、その能力を積極的に拡大しようとしているということである。第一に、ロシア軍参謀本部諜報総局(GRU)は特殊部隊の採用と訓練の管理方法を再構築しており、欧州諸国に潜入させるための支援組織を再構築している。第二に、GRUはワーグナー・グループの機能をGRU内に取り込み、西側の提携に取って代わることを明確に意図して、アフリカでの提携拡大を積極的に進めている。第三に、チェチェンの指導者であるラムザン・カディロフは、欧米の利益の破壊に貢献する目的で、ヨーロッパと中東のチェチェン人とイスラム教徒の間に広範な影響力ネットワークを構築するために利用されている。こうした動きには対抗すべきである。」

「失敗続きのロシアの有効性を改革する第一段階は、特務機関からの報告の誠実さと成功の可能性の評価の両方を改善することだった。これは2022年後半、作戦管理システムの改革によって達成された。そのためにロシア大統領府は、セルゲイ・キリエンコの総指揮の下に特殊影響委員会を設置し、定められた国に対して特殊部隊に特定の任務を割り当て、作戦の効果を評価する責任を負わせた。特殊部隊の活動の尺度を活動から効果に移すことで、委員会は、それまでどちらかといえばバラバラだった努力のラインを統合し始めた。」

なお、キリエンコ大統領府第一副長官については、セルゲイ・キリエンコを「特殊影響委員会」の責任者に据えたことがThe Economistの記事でも紹介されており、同委員会は「西側に対する作戦を調整し、それを評価する」ためのものだと指摘されている。いわば、スパイ関連の非通常型軍事活動の元締め役を彼が果たすことになったのである。

「2023年6月下旬、ワーグナー・グループの指導者が清算される前に、プリゴジン企業を解体することが決定された。FSBがプリゴジンの国内商業企業を引き継ぎ、彼の通信事業はロシア調査庁の監督下に置かれることになった。対外軍事部門はGRUに属することになった。GRUのなかで、ワーグナーの活動は二つの部門に分けられることが決定された。まず、ウクライナでの活動を担当する義勇軍が結成される。レドゥートのような企業が、ワーグナーの戦闘員が個人として登録するための法的メカニズムを提供することになる。これらの企業はその後、ロシア国防省にサービスを提供する契約を結び、ロシア軍の管理下に置かれることになる。義勇軍は、特別軍事作戦司令部に対するGRUの特別代表であるアレクセイエフによって、GRU内で管理されることになる。これと並行して、GRU は遠征軍団を設立し、コンボイを含むさまざまな中隊を、戦闘員が登録するための前線基地として利用した 。当初、遠征軍団に参加する兵力は4万人であった。その後、2023年末までに2万人という目標に引き下げられたが、GRUはこれを達成できなかった。当初期待されていたよりは遅いが、人員数は着実に増加している。」

「エフゲニーの息子であるパヴェル・プリゴージンは、ワーグナーをヴィクトル・ゾロトフとロスグバルディア(国家警備隊)に組織として提供することで、組織の統制を保とうとした。これは、ウクライナにおける戦闘能力を拡大するようロスグバルディアに 指示したことと一致していたため、部分的に承認された。同様の問題が義勇軍と遠征軍の間でも生じた。後者の方が明らかに安全であり、長期的に有利な資金集めの機会を提供していた。前者ははるかに危険だった。GRUはこの緊張を、各兵団間の財政パッケージを調整することで管理しようとした。とはいえ、結果としてワーグナー部隊の分裂は、部隊の結束を乱すことになった。さらに管理しなければならなかった課題は、配備された遠征軍部隊の申し出と結束であった。ワーグナーのもとでは、バックオフィス・アフリカが、並行する中隊にしばしば認められる並行譲歩やその他の補償を伴う支援の提供を交渉した。たとえば、2018年、CARのファウスティン=アランチェ・トゥアデラ大統領が、反政府武装勢力との戦いにおける支援と彼の親密な保護を提供するようロシアに訴えた後、彼の元国家安全保障顧問ヴァレリー・ザハロフ(元ロシア情報将校)が執務室に戻った。ザハロフはその肩書きにもかかわらず、ロシア連邦が関心を持つ経済プロジェクトの調整など、幅広い問題を担当していた。」

 

チェチェンのカディロフ

つぎに、チェチェンのカディロフをめぐる考察を紹介しておきたい。きわめて興味深い分析がなされている。日本の「専門家」とレベルが違うことがわかるだろう。

「ロシアの主張は、宗教性、核家族、異性愛、国家への忠誠に象徴される「伝統的価値観」の砦であるというものだ。正教会はこのアウトリーチを米国の宗教団体に、またソーシャル・メディアを通じて西欧や北米の保守的な有権者に働きかけている。このようなロシアのビジョンは、西側諸国を、宣伝されつつある一部の薄気味悪いプロパガンダの物語によれば、退廃的なサタン崇拝の同性愛の砦として描くことと対照的である。伝統的な価値観を守るというロシアの物語は、カディロフ政権下のチェチェンにおけるロシアの非伝統的な戦争能力によって、特別な表現と合流を見出す。カディロフのソーシャル・メディア上での独特な独白、チェチェンの戦闘員がティックトック上で繰り広げる戦術的に偽りの戦闘劇、チェチェン政治の恣意的な暴力は、現代のチェチェンが欧米の観客にとって悲劇的であると同時に滑稽に見えることを意味する。とはいえ、チェチェンとその指導者に対する認識の多くは不正確である。」

「近年、カディロフはアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザイード皇太子、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、バーレーンの王族代表、ヨルダンの指導者など、中東の多くの指導者と効果的な協力関係を築くことに成功している。たとえば、2017年にロシアを訪問した際、サウジアラビアの国王がプーチンよりもカディロフと過ごす時間が長かったことは示唆的だ。ウクライナへの全面侵攻に伴う反ロ制裁への参加をいくつかの国が拒否したのは、カディロフの外交努力によって形成された部分もある。2023年7月、プーチンがカディロフの顧問であるトゥルコ・ダウドフをイスラム協力機構の常任代表に任命したのは驚くべきことではない。ロシアが外交官としてのカディロフを、さまざまな理由でロシアとの関係を追求している対話相手よりも重視していることは議論の余地がある。とはいえ、外交において個人的な関係は重要であり、カディロフはロシアのさまざまな努力の仲介者となっている。」

「最後に、カディロフは2013年にカディロフの主導で設立された民間組織、ロシア特殊部隊大学を通じて防衛外交を行っている。当初は「特殊部隊国際訓練センター」と呼ばれ、プロジェクトの直接の監督者はカディロフの顧問で、元FSB特殊目的センターの職員だったダニール・マルティノフ大佐だった。この組織は広く誤解されている。多くの人が、特殊部隊を訓練するための組織だと誤解している。訓練センターと同様、チェチェンも特殊作戦部隊を保持し、暗殺や破壊工作に利用している。また、政治的デモも行っている。2016年、北極圏でのロシア特殊部隊大学の訓練中、チェチェンの特殊部隊の一団が、ノルウェーの非武装化されたスヴァールバル諸島に位置するロングイヤー空港の領土に武器や軍事機材を持ち込み、両国間の外交スキャンダルの原因となった。大学は特殊作戦の神秘性をマーケティングに利用しているが、この組織は特殊部隊が非正規部隊を訓練するセンターであると理解した方がよい。この組織は、国際的な訓練や、ウクライナ戦線での部隊の準備のための訓練を提供している。」

まだまだ参考になるところがある。本当に、ウクライナ戦争を分析したいのであれば、この論文を読むことは必須である。

 

 

 

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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