問題の所在を教えてくれる東芝・経産省事件:腐敗が構造化した日本
「ニッポン不全【10】 国の遅れは企業の遅れ」において、「国家統治と企業統治の同調性」という話を紹介したことがある。今回、問題になっている東芝の企業統治をめぐる混乱は、日本の代表的企業の企業統治の脆さだけでなく、東芝と結託してきた経済産業省の恣意的な行政、さらに行政権を公正に統治できていない国家統治そのものの欠陥をあらわにしている。簡単に言えば、日本は国家統治も企業統治もお粗末きわまりないということだ。しかも、それは相互に関連していた構造的な問題とみなすことができる。根が深いのである。
「負け犬」東芝のひどさ
この問題についてのさまざまな考察のなかで、もっとも「ガッテン」できたのは元通商産業省の官僚、古賀茂明の説明(https://mainichi.jp/articles/20210625/k00/00m/020/107000c)である。「かつてエリートだった東芝と経産省の地位が落ちぶれてしまった現状を踏まえると、「負け犬同士の腐れ縁」と言える」というのだ。
東芝は、経団連の第2代会長石坂泰三と第4代会長土光敏夫を輩出した。しかし、その後、経団連会長の座をねらった西室泰三、岡村正、西田厚聰といった東芝社長らが東芝をダメにしたことはよく知られている(「東芝、車谷社長〝電撃解任″、CVCとの関係に疑惑」[https://biz-journal.jp/2021/04/post_220766.html])。
とくに、2015年7月21日、粉飾決算で東芝の歴代3社長、田中久雄、佐々木則夫、西田厚聰が引責辞任した出来事は東芝の凋落を決定づけた。数年間にわたって営業利益を12億ドル近くも誇張していたことが判明した。歴代の3人の最高経営責任者が、非現実的な売上目標を達成するよう部下に強い圧力をかけてきたのだ。さらに、米国の子会社ウェスチングハウス・エレクトリックがフロリダ州に建設した原子力発電所に関連して、1億ドル以上の損失を計上していなかったこともわかった。
東芝の経営が私物化され、株主の権利を踏みにじってきたにもかかわらず、経営者の刑事責任は問われなかった。裏で当時、日本郵政社長だった西室が暗躍し、事件の責任を曖昧にすることに成功したのである。このとき、西室は2012年に東芝の副社長を退任していた室町正志を呼び戻し、会長、そして社長に据える人事を差配した。2016年に室町は社長を退任したが、「西室は後継社長の候補の一人だった副社長の綱川智を伴い、家電量販店を行脚した」という。その綱川が社長に就任し、今回の一連のスキャンダルの渦中の4月、車谷暢昭社長兼CEOが辞任した後に、前社長の綱川智会長が社長兼CEOに返り咲く。
西室は2017年10月に老衰で死亡した。それでも、東芝凋落の「A級戦犯」と呼ばれている西室の息のかかった人物がいまでも東芝社長をしているというのでは、東芝はまったく救いようのない状況と言えるだろう。
東芝をめぐる二つの大問題
米国で日本の企業統治を研究しているアリシア・オガワは論文「東芝と企業統治の神話」(https://www8.gsb.columbia.edu/cjeb/sites/cjeb/files/CG%20update%20%232.Alicia%20Ogawa.Toshiba%20and%20the%20Myth%20of%20Corporate%20Governance.pdf)のなかで、東芝の企業統治上の大問題を二つ指摘している。その第一は、東芝が沈黙の株主によって守られてきたことだ。企業と金融機関との株式の持ち合いの割合は徐々に低下しつつあるものの、上場企業は多くの場合、「その株式が他のグループ会社や顧客、サプライヤーに譲渡されている」結果、こうした株主の沈黙によって経営陣が株主総会の議決に窮する場面は考えにくいのだ。投資信託などの資金で取得した株を多数保有する信託銀行も、現経営陣の経営を真正面から批判する株主権の行使はしにくい状況がつづいていた。
もう一つの大問題は、「社内で誰も声を上げなかったことだ」とオガワは指摘している。日本の終身雇用制度では、雇用の安定が上司への忠誠と引き換えになり、上下関係を深く尊重することが求められる。社長の権限は疑われないことが多い。「社内調査によると、東芝の従業員はウェスチングハウスの損失計上を遅らせろという経営陣の命令に異議を唱えることができなかった」という話をオガワは紹介している。
日本企業の伝統として、外部から中途採用されることは少ない。他の会社で経験を積んだ新鮮な目が入社すれば、東芝の慣行に光を当てることができたかもしれないが、そんなことはなかった。会計スキャンダルが発覚した当時、東芝の取締役会にいた4人の独立取締役のうち2人は、財務・会計のバックグラウンドがないことが判明しており、彼らが異議を唱えることは難しかったとも、彼女は指摘している。
経済安全保障という錦の御旗を手にした経産省
古賀によれば、「東芝の社長や会長は、経団連や日本商工会議所の要職の常連であり、経産省の政策にお墨付きを与える審議会の会長に就くケースも多い。税制改正を行ったり、新しい制度を作ったりする際には、与党政治家への根回しなどで協力してくれる。つまり経産省と二人三脚で産業政策を動かしていく立場にあった」。
だが、こうした構造は日本経済の発展とともに本来、崩壊してゆく。古賀はつぎのように指摘している。
「実は90年代以降、企業が経産省に相談事を持ちかけることが目に見えて減っています。所管する産業の規制緩和を進めた結果、多くの規制権限を失いました。これに伴って、経産省は仕事がなくなり、「構造的な失業時代」に入りました。経産省自体の地盤沈下が進んだのです。」
問題は、こうした変化にもかかわらず、経産省が生き残り、第二次安倍政権のもとで、経産省出身で首相政務秘書官に起用された今井尚哉が重用されたことかもしれない。その際、経産省が手に入れたのが「経済安全保障」という錦の御旗だ。2019年に改正され、翌年施行された、いわゆる改正外為違法のもとで、経産省は海外投資に日本の経済安全保障を理由に介入できるようになったのである。
だからといって、経産省が何をしてもいいわけではない。東芝の外部弁護士がまとめた調査報告書では、東芝が2020年7月末に開いた定時株主総会について、「公正に運営されたものとは言えない」と結論づけられている。報告書は、東芝の経営陣が「我々の最大の関心事項はアクティビストを抑えることができるのか否かです」と経産省の課長にメールを送るなど、一体で改正外為法の権限発動の可能性も背景に、株主の提案権や議決権行使を事実上妨げようと画策したと指摘している。
経産省が民間企業の株主総会に介入し、経済安全保障の名のもとに、もの言う株主である「アクティビスト」をねじ伏せたというわけだ。
経産省のDNA
古賀は、つぎのように語る。
「経産省の時代遅れのDNAに任せて、産業振興やデジタルトランスフォーメーション(DX)、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーなどへの転換を図る「グリーントランスフォーメーション」(GX)を進めても失敗します。このままでは「失われた30年」が、40年にも50年にもなってしまいかねません。」
こんな時代遅れのDNAがいまでもしっかりと受け継がれていることは、新型コロナウイルスの影響を受けた事業者を救済するための「家賃支援給付金」を騙し取った二人の経産省キャリアの逮捕が裏づけている。こんな人物を採用し、省内でろくな教育も施せなかった経産省には、思いあがったエリート主義が跋扈し、ミーム(文化遺伝子)となって脈々と継承されているのだ。
ゆえに、こんな経産省などいらない。
古賀はつぎのように主張している。
「私は経産省を解体し、省庁を再編すべきだと考えています。今回の介入は、所管する企業を守ろうとする担当部署と、外為法などの規制部署が同じ経産省の中にあったからこそ起こった問題であると言えます。こうしたおかしな事態を避けるため、外為法の規制は、例えば内閣官房の国家安全保障局など経産省以外の組織に移管すべきです。そうしなければ第二、第三の東芝問題を防ぐことはできません。」
こうした時代錯誤がいまなお残存している背後には、まったく能力のない者が世襲政治家として首相を務めるといったバカげた現実がある。
いま心配なのは、河野太郎のようなマヌケが首相になる事態だが、まあ、これも国民のバカさ加減の反映なのだろう。本当に何とかしなければ、「失われた50年」どころか「失われた100年」という事態が現実のものとなるだろう。
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