『ガスプロムの政治経済学:エネルギー資源外交を斬る(2019年版)』

『ガスプロムの政治経済学:エネルギー資源外交を斬る(2019年版)』

塩原 俊彦

 

拙著『ガスプロムの政治経済学:エネルギー資源外交を斬る(2019年版)』(Kindle版)を刊行しました。これで同じタイトルの3冊目ということになります。過去2回と異なり、石油資源や核資源に関連した考察も加えて、エネルギー資源を外交上の「武器」としてきたロシアの現状について分析しています。

きわめて詳細に考察しているので、「専門家」なる人にしか興味をひかないかもしれません。それでも、基本的に外交問題を取り上げているので、国際関係に関心のある方には多少とも参考になると期待しています。

本文にも書きましたが、今後、数年間、ロシアとベラルーシとの関係がロシアの外交上、きわめて重要になると思います。

たとえば、下記のような文章を書いておきました。

 

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 ベラルーシをめぐる不可解な状況

ベラルーシでは、現在、ロシア政府の支援で核発電所を建設中だ。フロドナ州で発電能力2.4ギガワットの加圧水型原子炉(VVER-1200)が建設中で、最初の原子炉は2019年11月に稼働が計画されている。このため、2022年までには、ガス燃焼火力発電所向けのガス消費量が年間35億㎥分も減少するのではないかと予測されている。これは、ベラルーシのガス消費量の2割近くに達する。ロシアはこの建設を請け負っているほか、国営のVEB経由で100億ドルもの融資を行っている。他方で、ベラルーシはガス消費の急減への対応および予備のために、出力800メガワットのガス燃焼火力発電所の計画を進めているが、その実現可能性は未知数だ。

 いずれにしても、この原子炉の建設が完了すると、ロシアからベラルーシへ輸出される天然ガスの多くが不要になる可能性がある。その減少分を欧州向け輸出に振り向けることも可能になるのだが、ガスプロムは他方でノルドストリーム2(NS-2)とトルコストリーム(TS)の建設を進めており、欧州向けガス輸出のためのパイプラインの輸送能力が過剰になる可能性が高い。なぜこんな不合理なことを行っているのかが問題になるだろう。

ベラルーシとロシアとの関係が悪化した事態に備えて、NS-2やTSを建設しているのではないかと勘繰る向きがある。「ヤマル-ヨーロッパ」と呼ばれるガスPLの輸送能力は年間330㎥であり、ベラルーシにおけるPL部分はすでに説明したようにガスプロムが支配している。ゆえに、ベラルーシとロシアの関係が悪化しても、このPLの閉鎖は難しい。もし閉鎖されても、NS-2やTSが完成していれば、「ヤマル-ヨーロッパ」による欧州へのガス輸出が100%できなくなっても、別のルートでの供給が可能となる。そうなれば、欧州がガス供給懸念をもつ心配もない。ゆえに、ロシアによるベラルーシとの国家同盟の「深化」に伴う混乱も対欧州関係に打撃を与える公算は小さい。こんな遠謀遠慮もありえるのだが、実情は判然としない。

 

ポーランドのロシア離れ

ロシアからベラルーシ経由でポーランド、ドイツに向かうガスPLである「ヤマル-ヨーロッパ」の役割は低下しつつある。ベラルーシでのガス需要の減少が見込まれるほか、ポーランドのロシア産ガスに対する需要も着実に減少しつつある。ポーランド国営のPGNiGは2018年11月、米国のCheniere Marketing LLPとの間でLNG供給契約に署名したことが明らかになった。2042年までの長期契約で、2019年から納入がはじまる。最大で年145万トン(再ガス化後、約19.5億㎥に相当)のLNGを米国から輸入することになる。これ以前にも、PGNiGは米Global LNGとのLNG購入協定を2018年10月中旬までに締結した。年200万トン(同27.2億㎥相当)が20年間、供給される計画だ。契約は2022~2023年にスタートする。ほかに、カタールのQatargasとの2034年までの供給契約(2017年までは年110万トンのLNG、2018年からは年200万トンを輸入)および米Sempra Energyとの契約(年200万トンのLNGを20年間)もある。

BP統計によると、2017年のポーランドのガス消費量は191億㎥で、そのうち100億㎥強はロシアからの輸入だった。ガスプロムとPGNiGとの契約は2022年に満了することから、その多くが米国やカタールからのLNGに代替される見通しだ。つまり、ポーランドは「ヤマル-ヨーロッパ」を利用してロシアからのガスを購入する必要性がなくなるのである。こう考えると、「ヤマル-ヨーロッパ」ルートで今後、問題が生じてもガスプロムとしては欧州側に迷惑をかける心配がなくなろうとしていることになる。

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なにやらきな臭い気がしてくるでしょう。ロシアとベラルーシの同盟国家の帰趨こそ、プーチンの今後を占ううえで重要になるのです。

というわけで、少しでも多くの方にこの本を読んでいただければ、幸甚に存じます。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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