Dishonest Abeの怖さとプーチンの怖さ

Dishonest Abeの怖さとプーチンの怖さ

塩原 俊彦

 

Dishonest Abeとプーチンが似ていることはすでにこのサイトで何度か指摘した。ここでは、「不誠実」、「不正直」ぶりについて、この二人を比較してみたい。それが二人の怖さを考えるのに役立つからである。

 

英国で、ロシアの元スパイのセルゲイ・スクリパリとその娘が神経剤によって襲われ、重体に陥った事件が起きた。スクリパリはソ連軍航空・パラシュート部隊からソ連軍参謀本部総局(GRU)を経て、ロシア外務省やモスクワ州行政府にも勤務していた人物で、2006年にスパイ容疑で14年の自由剥奪の刑を受けたが、2010年に米国で逮捕されたスパイとの交換でロシアから去ることができた人物だ。

 

他方で、ニコライ・グルシコフ元アエロフロート副社長が死亡しており、かれの死についてもロシア側の関与が疑われている。

 

ソ連・ロシアは当局にとっての裏切り者に「メルカデル」を差し向けるのが伝統のようになっている。メルカデルとは、1940年にレフ・トロツキーをアイスピックで殺害したラモン・メルカデルのことだ。かれはスペイン生まれのソ連のスパイであり、メキシコに逃れていたトロツキーを殺した。

 

プーチン大統領就任後では、アレクサンドル・リトビネンコが2006年11月にロンドンで殺害された事件が有名である。放射性物質ポロニウム210で殺されたことから、ロシア政府の関与が濃厚だ。リトビネンコは1999年に相次いだアパート爆破事件について、ソ連国家保安委員会(KGB)の後継機関、連邦保安局(FSB)によるものだと主張していた人物で、かれもまたFSBの元職員だった。かれは、この爆破がFSBによって仕組まれたもので、チェチェンのテロリストの仕業に見せかけることでかれらを弾圧し、プーチン首相(当時)の人気取りにつなげたという見方を示していた。だからこそ、プーチンからみれば、リトビネンコは裏切り者であった。

 

興味深いのは、アパート連続爆破事件の真相を知ろうとしたユシェンコフとシェコチヒンという二人の下院議員もまた殺されたことである。この事件の闇の深さがうかがわれる。

 

欧米のマスコミも日本のマスコミを報道していない重要な情報を紹介したい。それは、2006年7月27日付ロシア連邦法で、連邦保安局法の第9条1項が改正されて、大統領の決定に基づいてFSBの特殊部隊を、ロシア連邦の安全保障上の脅威を取り除くために海外に派遣できるようになったことである。名目上は、国外にいるテロリスト集団の暗殺を目的としてFSB特殊部隊を国外に派遣できるようにしたのだが、事実上、これをリトビネンコ殺害に利用したのかもしれない。もしそうであれば、プーチンからみれば「合法的にリトビネンコを殺した」ことになる。

 

仲間に誠実なプーチン

裏切り者には冷たいように見受けられるプーチンだが、味方には「誠実」にみえる。わたしは2012年10月25日午後5時過ぎから約2時間半、プーチンと同じ空間で食事をしたことがある。かれが主導してつくったヴァルダイ・クラブという外国のジャーナリストや研究者を集めた機関が主催した晩餐会で話をしたのだ。いわば、「味方」を前にしたプーチンはきわめて誠実にみえた。ジャーナリストのバカげた質問にも、誠意をこめて答える姿勢に驚きを感じたほどである。この間、かれはブルーベリーのようなものを口にしただけで、あとは少しだけワインを含んだ程度だった。

 

ついでにわたしのことを明かしておきたい。わたしは決してプーチンの味方でも仲間でもない。ただ、毎年のように会っていた軍事評論家がヴァルダイ・クラブへの参加を根回し、2011年と2012年に2回にわたって、ヴァルダイ・クラブに招待してくれただけだ。そんなわたしは、拙著『プーチン露大統領と仲間たち:私が「KGB」に拉致された背景』で詳細に書いたように、KGBの後継機関であるFSBによって拉致された経験をもつ。そのとき、ロシアに協力する旨の書面を書かされ、そうした強要の事実をすべて本にした。つまり、FSBからみれば「裏切り者」ということになる。まさか、わたしの命をねらっても、ほとんど意味はないと思うが、わたしのことがプーチンの耳に入れば、わたしの命もねらわれるかもしれない。そんな切実な状況下で、この文書を書いているとだけは吐露しておきたい。

 

Dishonest Abeの類似性

たぶん、Dishonest Abeもかれの仲間には誠実なのだろうなと思う。加計孝太郎への態度は誠実そのものなのかもしれない。逆に、裏切られたと感じる相手には厳しい。それが籠池夫妻への対応によく現れているのではなかろうか。すでに指摘したように、Dishonest Abeは法を重んじながら統治する法治主義と真逆の法を無視して仲間を優先する政治を行う人治主義に傾いており、それはプーチンと類似している。

 

よく似ているだけに、裏切り者は許さないという姿勢までそっくりなのではないかという事件が明らかになった。文部科学省が名古屋市立中学校で講師を務めた前川喜平・前事務次官の授業内容や録音データの提出を市教委に求めていた事件である。Dishonest Abeからみれば、前川は裏切り者であり、ゆえに前川に対して徹底して嫌がらせをしようとしているのではないか、と思えてくる。プーチンは大統領府の管轄下にあるFSBを使って「メルカデル」を国内にも海外にも送り込めるが、まさか日本ではそこまではできまい。それでも、力をつけていながらシャドーパワーとして暗躍する、官邸の役人を使えば、今回のようなことはできるのではないか。もちろん、ここでの議論は可能性の話であって、そんな証拠はいまのところは見当たらない。首相官邸の公文書管理がどうなっているかは知らないが、公文書改竄が行われていなければ歴史が真実を明らかにしてくれるだろう。

 

情けないのは、文科省の役人が個別の授業内容を調査するのは明らかな脱法行為である点だ。教育基本法第16条「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない」を読めばわかるように、教育は不当な支配に服してはならないのであって、その不当な支配につながる行為を文科省自体が行って、なにをしようというのか。戦前の教育体制を復活しようとするこの動きは断じて認められない。責任者の処分はもちろん、二度とこんなバカなまねができないように文科省の権限を厳しく制限すべきだ。

 

こんな不当な行為に対して、なんの責任もとろうとしない文科大臣は林芳正である。かれもまた世襲議員であり、その能力に疑問符がつく。Dishonest Abeの同類とみなすことができる。世襲議員が癌であることはすでにこのサイトで論じた。

 

Dishonest Abeがこのまま首相をつづければ、ますますプーチン政治に近づいていくのは確実であろう。裏切り者を断罪することで、人治主義・反法治主義を守り抜こうというのはおかしい。それでは、プーチンとまったく同じになってしまう。

 

「21世紀龍馬」であれば、こんな状況を決して許さないであろう。死を賭して新たな新国家をめざした「19世紀龍馬」がわたしを励ましてくれているのだ。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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