どうしてこう低レベルの研究しかできないのか:ロシア経済分析で

独立言論フォーラムの連載「知られざる地政学」で、ロシア経済について久しぶりにまとめてみようと思い立った。その際問題になるのは、「戦時経済体制」下にあるロシアが情報開示を厳しく制限するなかで、ロシア経済にどう切り込むかである。

 

学問の方法を知らない日本研究者

こうした問題意識をもって、最初に行うのは、例によって、過去の研究業績のサーベイである。いまでは、ロシア語のものはあまり期待できないので、日本語と英語について、重点的に調べ上げる。現在、その作業の真っただ中にある。

そこで、気づいたことがあるので、書き留めておきたい。それは、日本人研究者の学術的アプローチの低レベルさだ。

唖然とするほど、低レベルなのである。たとえば、防衛研究所の小野圭司なる特別研究官は2024年3月に、「経済面から見たウクライナ侵攻3年目」なる論考を公開している。しかし、その内容はスカスカだ。この人は、ソ連経済からロシア経済へと変遷してきた、いまのロシアの経済体制そのものに対する理解がまったく不足している。

そもそも、先行研究への敬意がまったく足りない。たとえば、2023年に書かれた英語論文のなかで、ジュリアン・クーパーの書いたAnother budget for a country at warという論文は必読だ。この論文を読まずに、何を書いても、それはまったく話にならない。それは、ロシア経済全般についても当てはまる。なぜなら、いま、ロシアは戦時経済下にあるのだから。

彼は、ソ連・ロシアの軍事経済研究の大御所である。私はかつて、わざわざ彼に会うために、バーミンガムに出向いたこともある。彼ほど、ソ連およびロシアの軍事経済について知りつくした研究者は世界にいない。まさに唯一無二の人だ。

そう考えると、2023年にSIPRI Insights on Peace and Security No. 2023/11に公開した論文は何度でも熟読玩味すべき貴重な論考なのである。

ところが、この論文を読んだ気配が小野の論考にはない。そう、まったく歯牙にもかからない不勉強な人物と指摘しなければならないのである。

 

しっかり勉強しろよ、第一生命経済研究所

「へぇー」と思ったのは、第一生命経済研究所の主席エコノミスト西濵徹なる人物が、2024年10月に、「ロシアは経済を維持する観点から戦争を止められないかも」という、とんでもない記事を公表したことである。

「こんな人物が第一生命研究所で主席エコノミストをしているのか」と、ある意味で感心した。もう絶対に第一生命保険の商品に手を出すことはしないように気をつけようと思う。

それだけではない。10月、彼は、「2024 年の世界で「産めよ増やせよ」を喧伝するロシア・プーチン政権」という記事を公表した。これでは、素人の戯言にすぐない。

ロシア経済のことを書くのであれば、戦時経済体制下にあるロシアについて、もっとまじめに勉強してほしいと心から願っている。

2024年で言えば、アレックス・オルロフの書いたInside Russia’s 2024 military-industrial complexがいい。NATO研究所のThe State of Russia’s wartime economyという分析も優れている。せめてこの二つの論文くらい読んで、いまのロシアについて考えてほしかったと思う。

 

指導者不足

残念ながら、ロシア経済を真正面から分析できる研究者が日本にはいなくなりつつあるようだ。いま、大学や大学院で教えている教官にも、私からみて、真っ当と思える人物がそもそもいない。みな低レベルの能力しかない。

はっきり言えば、「バカによるバカの再生産」がここでも広がっているように思える。こんな状況では、まともな議論そのものができない。本当に困った状況にあると言わざるをえない。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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