拙著『帝国主義アメリカの野望』のなかで、ニュートン科学に魅せられたヨーロッパの人々がその科学を人間そのものの社会現象などに適合しようとしたことについて少しだけ論じた。

こんな考察を通じて、改めてアナロジーに基づく考察は、気づきにくい視点を提供してくれると思っている。

そんな私は、ゴキブリから政治家をながめるという視点に関心をもつようになっている。2024年5月20日付のNYTは、「ゴキブリはいかにして世界を征服したのか？」という興味深い記事を公表した。まず、この記事の内容を紹介して、ゴキブリそのものに対する理解を深めたい。

チャバネゴキブリ

ゴキブリは地球上に4500種も存在する。そのなかで、チャバネゴキブリ（Blattella germanica）は他のゴキブリ種を圧倒し、世界でもっとも蔓延している室内害虫と言われている。記事では、5月20日、『米国科学アカデミー紀要』誌に発表された、ハーバード大学の進化生物学者チアン・タン著「チャバネゴキブリの起源と世界的伝播に関する250年来の謎を解く」という論文が紹介されている。

これまで、チャバネゴキブリは1700年代後半に中央ヨーロッパでその名がづけられ、この種はアフリカ北東部が起源であると結論づけられていた。しかし、アジアゴキブリ（Blattella asahinai）という別の種がおり、この種がチャバネゴキブリの祖先の有力な候補であると考えた研究者は、17カ国281匹のゲルマンゴキブリからDNAを採取し、遺伝子の違いを調べた。その結果、チャバネゴキブリの祖先はアジアゴキブリであり、おそらく南アジアで人類文明が繁栄していた2100年前頃に、二つの家畜化系統（農業/生育環境と建築環境）をもち、人類の居住地に生息していたことが判明したという。チャバネゴキブリの世界的な伝播は、インドまたはミャンマーを起源とする西と東の二つのルートで始まったことが判明したという。

チャバネゴキブリは兵士のパンかごにヒッチハイクで入っていたことが知られていることから、西への拡大は、おそらくイスラムのウマイヤ朝またはアッバース朝カリフの商業・軍事活動の激化によるもので、東への拡大は、南アジアと東南アジアを結ぶヨーロッパの植民地商業活動（おそらくオランダとイギリスの東インド会社）によって促進されたと思われる、と論文は記述している。

興味深いチャバネゴキブリの勢力圏拡大

論文は、「18世紀の時点では、チャバネゴキブリはまだほとんどアジアに生息していた」とのべている。チャバネゴキブリが世界の他の地域に広がったのは、19世紀後半から20世紀初頭であり、それは、蒸気機関などの輸送手段の発達により貿易がグローバル化し、配管や室内暖房など住居の快適性が向上したことと対応関係をもっている。チャバネゴキブリの個体群は、長距離移動中の死亡率の高さや耐寒性の低さから、以前は立ち入ることができなかった地域を植民地化することができるようになったのである。

加えて、チャバネゴキブリの殺虫剤への耐性にも注目する必要がある。チャバネゴキブリは多くの嗅覚受容体の遺伝子を持ち、有毒物質に抵抗するためのタンパク質を多くもっている。このため、「新しい食料源を察知し、殺虫剤に対する耐性を素早く発達させることができるのは、これらの遺伝子のおかげである可能性が高い」という。

ゴキブリと腐敗する政治家

ここで、チャバネゴキブリについてわかったことをもとに、腐敗した政治家について考えてみよう。たぶん、政治家もカネにまつわるニオイをかぎ分けて、世界中に腐敗の種を撒き散らしてきたに違いない。グローバル化という動きは、政治家という、近代国家の代理人による腐敗と一蓮托生なのだ。

その意味で、いわゆる帝国主義の広がりと併行して、ゴキブリもゴキブリ政治家も権勢を誇るようになったのだろう。同時に、ゴキブリ政治家は倫理的要求に対する屈強な耐性を身につけるようになる。ゴキブリ政治家はゴキブリと非難されることで、逆により強い精神力を養って、より強いゴキブリ政治家となってきたのかもしれない。

だからこそ、ゴキブリ政治家はそう簡単には死に絶えない。政治倫理審査会のような場では、決してゴキブリ政治家はへこたれないのである。

だが、一撃のもとにゴキブリ政治家を叩き潰す方法がないわけではない。それは、「外部」へと追い出すという方法だ。

ゴキブリは、人類文明の勃興が彼らに住みやすい都市環境を整えたところに生まれた。アジアゴキブリの一部は人間の居住地や農園の近くにもともと住んでいたが、おそらく人間が植えた作物を食べるようになった結果、その後、人間の住居にも同じような食料源があったため、室内に移動し、やがて家庭の害虫となったと推測されている。そう考えると、ゴキブリ政治家もカネに目がくらんで、内部化することで自らの利益を求めて、悪行をなし、内部そのものの制度を食い散らかしてもろくしていることに気づく。

そうであるならば、ゴキブリ政治家を内部から追い出す方法を考案する必要がある。その意味では、世襲政治家が同じ選挙区から出馬することを禁止するのは最低限の条件となるだろう。