ノルドストリーム爆破から1年:覇権国アメリカに逆らえない「現実」

ロシア産天然ガスを、バルト海海底を通ってドイツに輸送するためのガスパイプライン、ノルドストリームが爆破されてから、2023年9月26日で、ちょうど1年になる。みなさんに注目してほしいのは、日本のマスメディアがこの問題をどうネグるかだ。

 

ハーシュのスクープを無視する日本のマスメディア

拙著『知られざる地政学』〈下巻〉のなかで、この問題について詳しく解説している。要するに、米国の調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュが2023年2月にスクープしたように、この爆破を命じたのジョー・バイデン大統領であったにもかかわらず、覇権国アメリカのトップが仕出かしたテロ行為を認めるわけにもいかず、同盟国は四苦八苦しているというのが真相だろう。

米国政府は表向き、ハーシュの報道を否定している。だが、『ウクライナ戦争をどうみるか』や『知られざる地政学』〈下巻〉で説明したように、ノルドストリーム潰しをもくろんできた米国政府の過去の行動を知れば知るほど、ハーシュの主張が正しいと思えてくる。

 

デンマーク、スウェーデン、デンマークの捜査当局のだらしなさ

情けないのは、爆発がスウェーデンとデンマークの経済特区で発生したため、爆破事件の捜査に当たっているスウェーデンとデンマークの捜査当局である。1年経過しようとしているにもかかわらず、まともな捜査結果を公表していない。ドイツも調査を開始したが、連邦検察当局は1月、爆発物の運搬に使われた可能性のあるヨットを捜索した程度の話しか伝えられていない。米国政府が陽動作戦として仕組んでおいたと考えれば、こんな捜査はまったく無意味ということになる。

本来、爆破に協力したノルウェー軍を徹底的に捜査すればいいだけの話だが、これができずにいる。理由は簡単で、それを見越して、米軍はデンマークでもスウェーデンでもなく、ノルウェー軍に協力を求めたからである。

 

米国が行った「汚い手口」

拙著『知られざる地政学』〈下巻〉のなかで、「NS-2をめぐる説明の前に、ガスPL敷設に絡んで、米国が行った「汚い手口」を紹介しておきたい」として、米国政府の「汚さ」について説明しておいた。その最初は、「1981年、オタワG7サミットで当時のロナルド・レーガン大統領が、シベリアから欧州へのPL建設向けに日本のコマツ(小松製作所)がソ連に設備を売却するのを阻止するよう、鈴木善幸首相に要請したことに関係している」。

詳しくは拙著に譲る。このように覇権国アメリカは横暴のかぎりをつくしてきたのであり、この姿勢はノルドストリームについてもまったく変わっていない。

日ごろ、偉そうにしている各国の捜査当局にしても、結局、覇権国アメリカの不利益になる事実、すなわちバイデンがノルドストリーム爆破を命じたことを認めるわけにはゆかないのだ。政治問題に発展するからというのが理由だろうが、国民の税金を使って調査しているスウェーデン、デンマーク、ドイツの捜査当局は、国民に正直に事実を説明しなければならない。それができないとすれば、これらの国は民主国家なのか。ロシアや中国とどこが違うのだろうか。

ついでに書いておきたいことがある。日本の検察庁は、税金を使って検察業務を行っているにもかかわらず、その業務の結果について国民に説明していない。たとえば、ある人物の起訴を見送ったとき、その不起訴理由をまったく明らかにしない。これは、日本に民主主義がない証拠だ。税金を投じている業務はすべてガラス張りでなければ、国民が行政サービスを評価できない。検察の身勝手を許せば、政治家と検察官の癒着を生み、権力集中へと近づいてしまう。「政治家よ、何とかしろ」であり、「マスメディアよ、検察を徹底批判せよ」ということである。

 

マスメディアのひどさ

日本のマスメディアはハーシュのスクープをほとんど報道していない。覇権国アメリカに尻尾を振りつづけている日本政府の意向に従っているのであろう。だが、こんなことをしてまで、なぜ覇権国アメリカに追随する必要があるのだろうか。

26日朝、NHKが流したニュースをみた。犯人を、①ウクライナ、②ロシア、③米国――とする説があると紹介しておきながら、③の米国説についてはまったく説明しなかった。こんなNHKに受信料など払う必要はまったくない。「米国が怖くて批判もできない」という日本政府とまったく同じなのだ。

このままでは、覇権を失いかねない米国は中国と早期に戦争をしかねない。だからこそ、日本は米国政府との関係を見直すべきなのだ。そのためには、マスメディアは覇権国アメリカのひどさを正直に報道しなければならない。いわば、キリスト教的な、あるいは宣教師的な見方ではなく、もっと包容力のある寛容な立場から、世界統治をゆったりと考える必要があると思う。

 

「政治家よ、しっかりしろ」

いま私が最後に期待しているのは、まともな政治家の存在である。20年来の友人だった仙谷由人が死んで以来、私には親しい政治家がいない。仙谷を含めて、信頼にたる政治家に出会ったことはない。だが、そんなことに絶望しているだけでは、前に進まない。

「政治家よ、しっかりしろ」といいたい。きわめて難しいが、『知られざる地政学』〈上下巻〉を読めば、いまの世界情勢がよく理解できるはずだ。ぜひとも読んでほしい。この本が世界情勢を考える出発点とならなければならない。

必要があれば、自民党であろうと、公明党であろうと、立憲民主党であろうと、共産党であろうと協力したいと考えている。日本国民の安全のために、いまこそ、覇権国アメリカのひどさに気づかなければならないからだ。

注意すべきは、覇権国アメリカの「スパイ」が日本の政権にも官僚にも、あるいはマスコミ関係者にも学者にもウヨウヨいるという現実だ。こうした人々が覇権国アメリカのために暗躍している。この厳しい状況にあるからこそ、いまのうちに何とかしなければ、日本は本当に覇権国アメリカの言いなりになったまま、戦争に巻き込まれてしまうだろう。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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