ドイツの付加価値税減税をめぐって

ドイツの付加価値税減税をめぐって

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は2020年6月3日、付加価値税(VAT)の基本税率を7月1日から12月31日までの半年間、19%から16%に、軽減税率を7%から5%に引き下げると発表した。減税規模は200億ユーロ(約2.5兆円)になる。同時に、子ども一人あたり300ユーロの手当支給や電気自動車購入補助なども明らかにした。

 

機動力に優れたドイツ

常識的に考えると、VAT引き下げは機動的に行われなければ、長期間の買い控えを誘発する。デフレスパイラルに陥ることで、経済が縮小均衡に向かいかねない。このため、ドイツはVAT引き下げ方針発表から実施までの期間を1カ月以内に短縮し、買い控えを最小限にとどめる工夫をしている。残念ながら、日本の場合、こんなことをしようと思っても100%できない。

ドイツはなぜこんな機動的な対応が可能なのか。おそらくインボイス方式をとってこなかった日本の特殊事情にかかわっていると言えるだろう。

インボイス方式とは、簡単に言えば、課税業者が発行する送り状(請求書や納品書など)のことで、これに記載された税額を控除できる。ヨーロッパでは、VAT導入当初から、このインボイス方式をとっているために、税率の変化に機動的に対応できる。

これに対して日本では、中小事業者保護を名目して、消費税課税の基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者を納税免除とし、なおかつ、インボイス方式の導入を見送った。なんと、日本がインボイス方式を導入するのは2023年になってからのことだ。

日本も軽減税率を導入したため、インボイス方式が導入されていないと、正確な税務処理が難しくなってしまう。とくに、複数の消費税率のもとでインボイス方式が導入されないと、仕入れと販売において不正が簡単にできてしまう。税率8%だった対象品を仕入れたのに、税率10%と偽って計上することで、その差額分の2%を誤魔化(ちょろまか)すことが簡単にできるのだ。

ゆえに、商店主優先の自民党政治が長くつづいてきた日本では、しっかりとした税制そのものが構築されてこなかった。このツケがいまはっきりと現れているのだ。消費税が導入されても、免税になる小規模零細業者を認め、なおかつ「脱税・節税」の防止につながるインボイス方式をあえて導入しなかったのである。つまり、国民のことを十分に考慮した政治が行われてこなかった結果、臨機応変な政策をとろうにもできないのである。はっきり言えば、バカな日本国民とバカな自民党とバカな官僚がドイツのようなスマートな政策を阻んでいるわけである。

まっとうな政治が行われていれば、どんな制度設計が望ましいかを国民にきちんと説明し、納得してもらえばいいだけの話なのだ。しかし、平然と嘘をつき、公文書改竄をしても罰せられず、賭博常習犯さえも逮捕されない日本では、こうした望ましい政治がまったく行われていない。自ら公職選挙法や政治資金規正法に違反している疑いが濃厚なDishonest Abeこと安倍晋三がこともあろうに首相をしているという国が日本なのだから、仕方ないのかもしれないが。

 

財政力の差

土井丈朗慶應義塾大学教授の解説「ドイツが「消費税率3%下げ」に踏み切る意味」(https://toyokeizai.net/articles/-/354869)をぜひ読んでほしい。とくに、つぎの2点の指摘が重要だ。

 

「ドイツ全体の財政収支は2012年以降、黒字に転じ、8年連続で黒字を続けた。その単純合計は約2220億ユーロ(約27.3兆円)にのぼる。ドイツ全体の政府債務残高は、2014年末の2兆5043億ユーロ(約308兆円)から2019年末には2兆3509億ユーロ(約289兆円)へと1534億ユーロも減らしていた。日本のように、政府債務残高が減らなくても、政府債務残高対GDP比が低下していればよいという、悠長な国とは次元が違う。」

「ドイツの消費減税は、財政収支が黒字になるほど税収を多く得ていたから減税するという話である。ただでさえ財政赤字なのに減税してもっと財政赤字を膨らますという話とは次元が違いすぎる。加えて、ドイツでは、歳出削減を徹底した後で減税するという話である。」

 

土井が指摘しているように、ドイツの財政力は日本の財政力と雲泥の差がある。めちゃくちゃな財政赤字を垂れ流してきたのはDishonest Abeであると言っていい。こんな日本だから、最初から消費税引き下げなどはできないのだ。

 

まったく遅れた日本

「コロナ禍」がもたらした不幸中の幸いがあるとすれば、それは、「日本が世界からまったく遅れている」現実を多少なりとも日本国民が知ることになったことではないか。The Economistを38年間毎週欠かさず読んできたわたしに言わせれば、日本はずいぶんと昔から世界から取り残されてきたのである。

いわゆるグローバリゼーションのなかで、その遅れは顕著になり、バカな官僚、バカな政治家、バカな学者がのさばるだけの国に成り下がってしまったと、もう20年くらい感じている。それがいま、「コロナ禍」によって白日のもとにさらけ出されているのではないか。

にもかかわらず、医者は「コロナ禍」が収まれば、「オンライン診療」の拡大を食い止めようとしているし、ハンコなしの電子署名の拡大を抑制しようとする連中もうごめいている。守旧派が既得権を守るために、せっかく「コロナ禍」が変革の扉を開けてくれたにもかかわらず、こういった連中は日本の遅れを糊塗し、自分たちの既得権益をあくまで守ろうとしている。

「21世紀龍馬」であれば、守旧派を懲らしめ、まったく新しい計画の道へといまこそ歩みを進めなければならない。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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