拙稿「ニッポン不全」に書いたこと

拙稿「ニッポン不全」に書いたこと

 

しばらくこのサイトにアップロードしてこなかったので、かつてわたしが書いた拙稿「ニッポン不全」の一部を抜粋するかたちで紹介してみたいと思います。

 

 

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3. 政治家の劣化

 

わたしは学生に「政治家を見たら泥棒と思え」と教えています。それほど、いまの政治家は劣化しているのです。その背後には、政治家の世襲化という問題があります。歴代首相を一瞥してわかるのは、細川護熙以降の首相の多くが政治家の家系から輩出されてきたという事実です。1993年に首相に就任した細川護熙から現在の安倍晋三までの13人の首相のなかで村山富市、菅直人、野田佳彦以外の10人はみな政治家の子息です。森喜朗の父は石川県根上町長であったが、衆議院議員や大臣を務めた父親をもつケースも多い。細川護熙の母は近衛文麿首相の娘であり、安倍晋三の父は外務大臣だったが、母方の祖父は岸信介首相、大叔父は佐藤栄作首相です。

1945年に首相に就任した鈴木貫太郎から1991年就任の宮澤喜一まで合計22人の首相(伊東正義首相代行を含む)のうち、芦田均(父は衆議院議員)、鳩山一郎(父は東京府議会議員)、福田赳夫(父は群馬県金古町長)、大平正芳(父は香川県村会議員)、宇野宗佑(父は滋賀県守山市長)、宮澤喜一(母は衆議院議員[司法・鉄道大臣]小川平吉の次女)が政治家との関係をもっていましたが、多くは自己研鑽によって首相にまで昇りつめたのです。

2017年8月、第三次安部第三次改造内閣の閣僚名簿が公表されました。大臣20人中、親族に政治家がいると思われる大臣の数は13人にのぼりました。まさに、世襲議員によってこの国の政治は腐っているのではないかという強い危機感さえ覚えます。

安部、麻生の留任組はもちろん、野田聖子総務大臣の祖父は大蔵省事務次官から政治家となり、建設大臣などを経験した野田卯一です。河野太郎外務大臣の父洋平は元衆議院議長、祖父一郎は建設大臣などを務めました。大叔父謙三は参議院議長だった。林芳正文部科学大臣の父義郎は大蔵大臣などの経験者であり、祖父佳介も衆議院議員でした。加藤勝信厚生労働大臣は大蔵官僚であり、農林大臣だった加藤六月の女婿となったことで政治家に転身した人物です。世耕弘成経済産業大臣の祖父弘一は元経済企画庁長官、伯父政隆は元自治大臣です。小野寺五典防衛大臣の旧姓は熊谷であり、気仙沼市長の小野寺信雄の娘と結婚して名前を変えた人物です。小此木八郎国家公安委員会委員長の父彦三郎は建設大臣などを務めました。内閣府特命担当大臣になった江崎鉄磨の父真澄は元通商産業大臣であり、同じく特命担当大臣の松山政司の父譲は元福岡県議会議員です。同じく梶山弘志(地方創生・規制改革担当)の父静六は自民党幹事長や内閣官房長官などを務めました。同(東京オリンピック・パラリンピック担当)鈴木俊一の父善幸は元首相です。

なかには世襲議員といえども、「能力があれば問題ない」という人もいるかもしれない。それでも、親から地盤、看板、鞄という「三バン」に支えられている現状を打破しないかぎり、公平性は担保されず、バカが政治家をやるシステムが継続しかねないのです。現に、なんの正当性もない輩がアホな有権者に選ばれて議員をやっているようにみえます。

 

政治をビジネスにする「政治屋」

政治資金規正法(1948年制定)上の政治団体には、①政党、②政治資金団体、③その他の政治団体があります。『週刊現代』(2007年9月29日号)によれば、安倍晋三の父、晋太郎は、病没する1991年までの10年間に、自らの政治団体である「晋太郎会」に2億5985万円、「晋和会」に2億5897万円、「夏冬会」に1億1940万円、3団体合計で6億3823万円もの巨額の個人献金をしていたという。3団体はいずれも当時の政治資金規正法に則って届け出をした政治団体(「指定団体」)で、政治家はこの指定団体に寄付すると、その額に応じて所得控除を受けることができたといいます。

この記事はつぎのような興味深い情報を明らかにしています。

「実際に本誌で調べたところ、安倍晋太郎氏の生前に作られた「安倍系団体」と呼ぶべき団体は、タニマチ的なものも含めて、六六団体にものぼった。さらに調べると、晋太郎氏は’91年5月に亡くなっているが、その直前の’90年末時点で、それらの団体には合計で6億6896万円もの巨額の繰越金があった。

安倍首相は父親の死後、政治団体を引き継ぐのと同時にそれら巨額の繰越金をもそっくり引き継いだのです。調べてみると、父の死の直後、’91年末時点で は22団体が解散し、44団体になっている。資金残高も4億円余りに滅ってはいる。ところが、解散などに伴って整理された資産などの行方を追っていくと、どこに献金したかが不明になっている「消えた寄付金」が、合計で1億8522万円もあったのだ。2億円近い巨額なカネはいったいどこに消えてしまったのか。

繰り返しになるが、これらの「消えた寄付金」を含めると、首相は、亡父が政治団体に寄付した6億円の個人献金を政治団体ごとそっくり相続したことになるのだ。」

相続については、財務省主税局幹部の説明として、「政治団体に個人献金した資金が使われずに相続されれば、それは相続税法上の課税対象資産に該当します。政治団体がいくつもある場合は、合算した資産残高のうち献金された分が課税対象になります。たとえ首相でも、法律の適用は同じです」という発言を紹介し、そのうえで、政治団体の連結収支報告書の数字を見比べて「この通りなら、これは脱税ですね」とのべたと紹介されています。仮に、政治団体を通じて相続した遺産が6億円とすれば、当時の税制では1億円以上の最高税50%が適用されて、相続税額は約3億円になります。ただし、「もちろん、税法上は相続税の脱税の時効は最大で7年。首相が罪に問われることはない。しかし、これまで1億円以上の脱税は、政治家でも逮捕されてきた。重大な犯罪であることに変わりはない」と、記事は指摘しています。

 

辺野古周辺の土地を買いあさっていた「政治屋」

政治をビジネスにしている「政治屋」が沖縄の米軍普天間基地の辺野古への移転に絡んで、その周辺の土地を買いあさり巨利をあげているとの観測が2010年にまことしやかにささやかれました。2010年3月5日付の『日刊ゲンダイ』の「辺野古を買っていた「政界9人リスト」が問題化」なる記事によれば、公安当局と防衛庁調査部が秘密裏に調べた結果、辺野古周辺の土地を購入している政界関係者は小沢一郎以外に少なくとも9人いたといいます。

2005年に小泉純一郎内閣がキャンプ・シュワブのある辺野古の沿岸部を埋め立てる案で米国政府と合意し、翌年、「V字滑走路」建設が決まりました。この当時、この案を推進していたのが守屋武昌防衛省次官で、かれと親しくしていた政治家がこの9人のリストに入っているとされています。防衛庁長官を経験したNとKとI、官房長経験者のN、特命大臣として沖縄問題を担当したT、首相秘書官の立場で官邸を仕切ったIの合計6人はいずれも自民党議員。当時の民主党の現職閣僚MとK、同国民新党のSの名前もあがっていたとされています。

事実関係ははっきりしませんが、米軍基地の移転に絡んで複数の日本人政治家が「税金泥棒」まがいの行為をしようとしたことは確実でしょう。そうであるならば、「政治屋」をメディアは調査し報道すべきです。そうした当たり前のことさえできないがいまの日本の現状なのです。

 

「パナマ文書」の怪

英領のタックスヘイブンを中心に世界有数の規模で取引顧客をもつ法律事務所から大量の機密文書が漏れ、その所在地の名前をつけた「パナマ文書」で呼ばれるようになりました。2015年に「南ドイツ新聞」に匿名でもたらされたパナマ文書はその後、国際調査暴動ジャーナリスト連合に送られて、分析されています。その結果は随時、公表されており、日本では、2016年4月と5月の公表時点で話題になりました。

たとえば、アイスランド首相のシグムンドゥル・グンロイグソンはパナマ文書によって数百万ドルの資産を妻とともにタックスヘイブンに隠していたことが暴露されて2016年4月に辞任しました。さらに、デヴィッド・キャメロン首相の父、イアン(2010年に死亡)がタックスヘイブンにBlairmore Holdingsという会社を設立し、そこに資産を移して脱税をはかっていた疑いが濃厚であることがわかしました。しかも、その会社の株式をデヴィッドとその妻が2010年まで保有していたというのです。

ほかにも、パナマ文書によって各国で数々のスキャンダルが起きました。それでもふしぎなことに、これまでの公表結果では日本の政治家の名前は登場していません。2017年11月に話題となった「パラダイス文書」でも同じです。その理由は簡単です。日本国内に政治家にとってのタックスヘイブンである「政治団体」が存在するからです。

この政治団体を使って、まったくせこいことをしている数多くの政治家がいます。石原慎太郎の三男、石原宏高衆議院議員はその資金管理団体から日常の飲食代を支出していたと、『週刊文春』(2017年3月30日号)が報道している。わたし自身はすっかり忘れていたことですが、安倍は政治資金でアイスキャンデーの「ガリガリ君」を買っていたし、甘利明は同じ日付で同じ筆致の5000円の領収書を3枚出し、添付義務のない1件1万円以下に抑えていたと報道されています(同2017年7月20日号)。加えて、政治団体「ともみ組」なる組織は2015年分の収支報告書のなかで結婚祝い2万円を支出したほか、「キリン一番搾り350ミリリットル」と弁当も購入しています(同2017年8月3日号)。

同じく悪辣な人物でありながら、政治家を臆面もなくつづけている山尾志桜里という衆議院議員もいます。資金管理団体「桜友会」なる政治団体の寄付金記載漏れ、ガソリン代の流用疑惑、そして不倫疑惑といった不祥事にみまわれながら、なぜかいまでも議員をしています。こんな人が政治家をしている現状では、政治家を信じる者はいなくなるでしょう。

こうなると、政治団体が「お財布」代わりに利用されていることになります。政治家には、政党交付金として直接税金が支払われており、そのカネが回りまわって政治家の政治活動を支えているのであり、そうした余裕があるからこそ飲食代に政治資金を回すことも可能になるわけです。わたしが「政治家を見たら、泥棒と思え」と学生に教えている理由がおわかりになるでしょう。因みに、外国も同じような状況にあります。ジャットは、「今日のイギリス下院は、悲しい光景です――小役人、イエスマン、プロの利権屋が集まるパーラーで」すと指摘しています。アメリカの上院も、「もったいぶった機能不全のパロディーへと成り下がってしまいました」とのべています。

 

 政治家の劣化は教養のなさに

日本の政治家の劣化はかれらの教養の欠如に現れていると思っています。ここで安倍晋三が連呼する「法の支配」について話しましょう。安倍は2014四年10月、国際法曹協会(IBA)が東京で開催した年次大会に招かれ、その場で「法の支配」について演説しました。そこで、「法の支配」は西洋を起源とする用語ですが、アジアでも同様の考えがあるとし、吉田松陰や聖徳太子の「十七条憲法」を持ち出しただけでなく、「法と正義の支配する国際社会を守ることが日本の国益」であり、法の支配の実現に向け外交を展開する、とまでのべたといいます。安倍は「法の支配」の考え方は普遍的だとし、「人類愛によって結ばれ、助け合う人間が、合意によって作っていく社会の道徳や規範。それが法です」と演説しました。

しかし、この理解はまったく間違っています。まず、法は道徳や規範よりもずっと狭い領域にしかかかわっていないことを確認しなければなりません。「法の支配」という言葉は“rule of law”という英国圏の概念であり、その成立過程は“rights”の意味が、「正しさ」から「権利」(あることをするか、しないかという選択の自由にかかわる)に傾いてしまう時期に重ねて理解しなければなりません。Rightsの意味の変容は、統治が「聖なる権威」から「俗なる権力」に移行した時期に呼応しているのです。

法を意味するlawは、あることをするか、しないかをどちらかに決定する束縛を伴うものであり、その法が民主的手続きに則って制定されれば、その法が「正しい」ことを不可避的に内在しています。それは、法そのものへの懐疑の念を弱体化させ、法は束縛として人間を拘束することになります。しかも、この法は共同体を前提に制定されるものであって、神の命令としての自然法ははるか昔に忘れ去られ、人間がつくる共同体全盛の時代になってしまっているのです。

こここでの記述の理解には第1章第2節「官僚の機能不全」で紹介したベンヤミンの説明が参考になります。つまり、「目的の正しさ」を決定する「神」がいなくなると、もう「正しさ」自体に真摯に向かい合うことがなくなってしまうという指摘です。そうした状況変化のもとで、「法の支配」は「倫理」や「道徳」から逸脱し、「神」にとって代わろうとしてきた「国家」の都合のいいものなっていくのです。ゆえに、「法の支配」は決して「正しさ」を示していません。ゆえに、「法の支配」はまったく不十分なものでしかないのです。この点が決定的に重要なのですが、安倍晋三はこの点がわかっていない。教養があるとは言えません。ただし、こうした無理解は日本人全般についても同じでしょう。まっとうな教育が行われていないからにほかなりません。安倍にとって問題なのは、「王様は裸です」と諫めることのできる人を近くに置いていないことでしょう。お仲間ばかりを集めても、「類は友を呼ぶ」だけなのです。

 

地方議会のめちゃくちゃ

地方議員のなかにも「政治屋」がうじゃうじゃいます。かれらに認められている政策調査研究名目のために支給される政務活動費がその趣旨に反して使われてきたことは周知の事実です。まさに、「税金泥棒=地方議会議員」なのです。各自治体に交付額や交付方法が任されており、その利用後の収支報告の内容、情報公開、監査もまちまちであるために、多くの不正が見過ごされてきました。日本の政治がおかしい最大の原因の一つは、こうした「政治屋」を野放しにしてきたことにあるのです。どうしても政務活動費がいるというのであれば、領収書に基づく事後支払いに改め、全収支をネットで公開するのが筋でしょう。もちろん、虚偽申告は刑事処罰の対象とすべきです。窃盗ではなく、詐欺と同じ刑罰の対象として厳しく断罪すべきなのです。なにしろ明らかな泥棒行為を働いているのですから。

近年の地方議会における特徴は、地方自治法などの法的拘束力のない問責決議の乱発です。「政治屋」が連帯して、かれらを糺そうとするまっとうな議員を、地方議会の秩序を乱すとして狙い撃ちにしていじめるのです。こうした現実を地方の新聞はなかなか報道しない。地方に自治を任せると、「政治屋」の天下になりかねない現実があるのです。いや現に、そうなりつつあります。

地方議会の場合、懲罰という手段があり、出席停止や失職に追い込むことができます。懲罰の対象範囲が限定されていたり、合法的な運用が求められたり、あるいは、裁判に発展したりする可能性があるため、法的拘束力のない問責決議によって気に入らない議員をいじめて排除するのです。ブログの発言が不穏当だといちゃもんをつけたり、服装が不適切だと問題視したりして、問責決議の審議に時間をとられて、議会での貴重な議論が空費されているのです。

率直に言えば、「政治屋」がそうではない議員をいじめる目的で問責決議を科す事例が複数みられます。わたしの知り合いの西原四万十町議員も問責決議を受けました。それは、四万十町議会のメンバーの多くが「政治屋」である裏返しなのです。もともとこんな輩を議員に選出する町民が悪いのですが、こんな「政治屋」を排除するには議員数を半分以下に削減し、議員の質を高めるところからはじめなければならないとさえ思えてきます。それほど地方議員は腐りきっているとはっきりと指摘しておきましょう。

2017年末には、自民党作業チームは6年前に廃止された地方議員年金に代わる新たな制度を導入する法案を検討中だといいます。本当に懲りない連中です。地方議員のなり手不足の解消のためというのですが、そんなことなら議員数を減らせばいいだけの話なのです。まさに政治をビジネスにするために年金まで用意させようとしているわけです。「盗人猛々しい」とはまさにこのことではないでしょうか。

 

4. ジャーナリストの衰退

 

日本のジャーナリストの多くはまったくだめです。不勉強という病理に侵されています。すでに紹介した情報操作といっても、意図的に重要な情報を無視したり、黙殺したりするものと、不勉強によって重要な情報を伝達できないものがあります。わたしが最近、深刻だと受け止めているのはマスメディア関係者の不勉強による意図せざる情報操作についてです。

やや昔の話をしましょう。わたしは1998年に朝日新聞社に途中入社しました。そのとき、はじめて朝日新聞社の資料室に入る機会があったのですが、その書架にはThe Economistがありませんでした。のちに、外報部という海外情報を扱う部署にある開架には同誌が置かれていることに気づきましたが、だれでも手にとれる場所にThe Economistがないことにショックを受けました。要するに、こんな状態では国際報道などできるわけがないのです。なぜかと言えば、The Economistはその当時から、世界中の言論を左右するマスメディアであり、それを読まなければ世界の潮流を知ることなどできないのですから。もちろん、この記述はThe Economistを全面的に支持するものではありません。世界的権威になっているだけの話であって、その記述が信頼に足るかどうかとは別問題です(現に、あまり信用できません)。

わたしは1993年から1年間、『経済セミナー』(日本評論社)という雑誌に「海外誌の読み方」という連載を行ったことがあります(No. 465~476)。そこでも紹介したのですが、The EconomistTimeNewsweekなどと比べて圧倒的に優れた雑誌でした。なにしろ、各国大統領の意見が投書欄に載るほどなのですから(もちろんすでに指摘したように、主要マスメディアは国家と結託して権威を保ってきただけの話なのですが)。こんな雑誌を読まずして世界のことが語れるわけがないのです(国際問題を理解するには、国家に近い主要マスメディアの報道ぶりがなによりも必要です)。つまり、わたしは朝日新聞社に入社した時点で、朝日新聞記者の不勉強を懸念しました。資料室にThe Economistがないのですから。

こんなこともありました。わたしは日本でもっとも優れた社会学者であると思われる大澤真幸に1994年ころに如水会館で食事をしたことがあります。当時、わたしは外報部に所属していたのですが、優れたかれの著作を読み、かれから実際に話を聴きたいと思い、実際に会ったのです(これが2002年2月、北大スラブ研究センターでのわたしの英語による報告に対するかれの英語によるコメントにつながりました)。このとき、わたしは大澤に「新聞記者に過去に会ったことがあるか」と尋ねたのですが、「読売新聞の学芸部の人には会いました」という返事でした。つまり、ここでも朝日新聞の学芸部員はまったく不勉強であったと言えるでしょう。

 

「本くらい読めよ」

政治家やマスメディア関係者の不勉強は、2016年に上梓した拙著『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』に対するかれらの冷淡さからも痛感しています。メジャーとは言えないポプラ社の新書ですが、「よく学ぶ人」であれば、この程度の本を読まないのは読まないほうがおかしいと思いまっています。心ある人なら、年間100冊以上の本を読むくらい当たり前だとわたしは思います。

この拙著を読んでわかることは、日本国民が国家統治をめぐる世界的潮流から完全に遅れてしまっているという事実です。民意をいかすためにある請願権という制度がまったく放置されたまま、電子請願制度の必要性さえ議論されない日本の現状を厳しく非難する内容になっています。

それだけではありません。「ロビイスト」と呼ばれる、政治家への要望を仲介する者に対する規制が世界中の国々で整備されており、透明性を確保することによって仲介者を通じた政治家への不正な働きかけを抑止する動きがあります。ただ、こうした世界的潮流を真正面から論じた本が日本にはそもそもほとんどありません。だからこそ、拙著はロビイスト問題を提起したのです。「本くらい読んで勉強しろよ」と、日本の政治家全員に言いたいと思います。基本的な教養くらい身につけてほしいと心から願っています。

唯一の慰めとなったのは、高知県の四万十町議会の西原真衣議員がこの本を読んで、わたしのところにメールをくれたことでした。これをきっかけに研究室で会い、さらにわたしの主宰する「21世紀龍馬会」を支えてくださっています。まともな政治家であれば、よく学ぶ姿勢を貫き、学ぶ必要があれば、実際に会って教えを乞い、自らを鍛えるのは当然ではないでしょうか。ところが、わたしの経験からはそんな努力を実際にしている政治家は西原以外には見当たらないのが現状です。

かつてわたしは朝日新聞記者時代、信託銀行の極秘情報を菅直人や仙谷由人らに提供し、国会での質疑につなげたことがあります。しかし、かれらとてわたしからみると、「政治屋」に近い。西郷隆盛の「敬天愛人」を地で行くような政治家では決してありませんでした。本当に困った事態なのです。

本を読んでいない実態をもう一つ例示しましょう。NHK関連の「従業員」、二人から、2014年の夏から秋にメールがありました。一人はウクライナ関連の話、もう一人はロシアの武器関連の話で、わたしに取材協力を求めてきたのです。この時点で、わたしは『ウクライナ・ゲート』(Kindle版)や『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)を上梓ないし上梓予定でした。わたしは、これらの拙著のなかでも、地球座のサイトでも、NHKの石川一洋解説委員を名指しで批判していましたから、こうした事実を二人に伝え、それを知ったうえで、わたしの協力を得たいなら、協力することもやぶさかではないと伝えました。しかし、その後、二人とも何の連絡もよこさないままです。つまり、かれらは私の本や論文を読まないまま、わたしのところに取材要請してきたのです。ジャーナリストとして最低の人々と指摘しなければなりません。実は、こんな輩が実に多いのです。まったく不勉強であり、歯牙にもかけがたい。こんなお粗末な状況に日本のマスメディアが置かれている事実に気づかなければなりません。そのうえで、優秀なジャーナリストを養成するための「教育」を充実しなければならないと思います。

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日本は相当に「ヤバイ」状況にあります。困ったことです。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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