ディスインフォメーションⅢ

ディスインフォメーションⅢ

塩原 俊彦

 

森友学園への国有地払い下げをめぐる公文書改竄事件をディスインフォメーションという観点から分析してみよう。すると、ディスインフォメーションをめぐるさまざまな問題点がよくわかる。

 

まず、Dishonest Abeがディスインフォメーションを自ら発信したことを確認したい。ここでのディスインフォメーションの定義は「意図的で不正確な情報」とする。

 

ディスインフォメーションは二〇一七年二月一七日に衆議院予算委員会での民進党の福島伸享議員へのDishonest Abeの二度にわたる発言によってなされた。議事録にある安倍の言葉をそのまま引用してみましょう(日本のテレビ報道の多くが、安倍が複数回、同種の発言を繰り返していた事実を報道していない)。

 

「この事実については、事実というのはうちの妻が名誉校長になっているということについては承知をしておりますし、妻から森友学園の先生の教育に対する熱意はすばらしいという話を聞いております。
ただ、誤解を与えるような質問の構成なんですが、私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もしかかわっていたのであれば、これはもう私は総理大臣をやめるということでありますから、それははっきりと申し上げたい、このように思います。」

 

「繰り返しになりますが、私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい。全く関係ないということは申し上げておきたいと思いますし、そもそも、何かそういうことが動いているかのようなことを前提にお話をされると、この小学校に通う子供たちもいるんですから、こういうことはやはり慎重にちゃんとやっていただきたい、このように思います。」

 

この二つの発言はまさに「意図的で不正確な情報」であり、ディスインフォメーションそのものである。第一に、二度にわたって同じ趣旨の発言をしたこと、第二に、売り言葉に買い言葉といって感情の高ぶりのなかでの失言とは思えないことから、安倍が意図的に不正確な情報を国会の場で発したと推定できる。おそらく安倍は森友学園への国有地売却に少なくとも妻が「かかわっていた」ないし「関係していた」ことを知りながら、これを全否定することで、自らの潔白を強く印象づけようとしたのだろう。あるいは、妻が「かかわっていた」ないし「関係していた」ことを知らないまま、とにかくこれを全否定することで、自らの潔白を強く印象づけようとしたのだろう。

 

いずれの場合でも、昭恵夫人が「かかわっていた」、あるいは「関係していた」ことは確実であり、百歩譲っても、「全く関係ない」という情報は「不正確」であったことが改竄された文書と改竄前の文書を比較することでわかる。この土地の貸付を認めるための「特例承認」の決裁文書のなかに安倍昭恵夫人の名前が三カ所あったのに、それをすべて削除する改竄が行われていたからだ。夫人の取引への「関係」や「かかわり」を隠蔽するために改竄が行われたと考えるのが自然だろう。ゆえに、安倍首相の発言はディスインフォメーションそのものといわなければならない。

 

なお、Dishonest Abeは2018年3月14日になっても、自分と妻が取引と無関係であると主張している。しかし、これもディスインフォメーションだ。まさにDishonestであるがゆえに、Abeは無関係だと言い張るのだろうが、第三者からみれば、無関係であることにはならない。繰り返しになるが、「かかわり」や「関係」があったといわれるのを防ぐために改竄が行われたと考えるのが自然だからだ。

 

わたしが安倍をDishonest Abeと記述しつづけてきた理由がおわかりいただけるだろう。Dishonestであるからこそ、ディスインフォメーションを国会で発信しつづけているのだ。それだけではない。このディスインフォメーションに基づいて、この不透明な国有地取引に安倍昭恵が無関係であったとか、合法的な取引が行われたと偽ったまま、安倍は二〇一七年一〇月に衆議院選挙を実施した。ディスインフォメーション工作のもとに、大義名分がはっきりしない選挙をやったことになる。その結果、政権側が権力を利用してディスインフォメーション工作を行えば、絶大な効果をあげることができることが示された。現に、自民党は大勝したのである。

 

はっきり言えば、Dishonest Abeはディスインフォメーションを使って日本国民を騙した張本人なのだ。ディスインフォメーションという観点からみれば、その弊害をいまだに撒き散らしている、懲りない輩ということになる。

 

しかし、これでは、民主主義は成り立たない。近代国家は民主的に選ばれた代理人による立法をもとに、その法律の遵守を国民や官僚に義務づける法治主義を大原則としている。しかし、官僚が法の遵守を曲げ、不法行為を行い、「意図的で不正確な情報」たるディスインフォメーションを流布すると、なかなかこの嘘を見破ることができない。ましてや、首相自らが平然とディスインフォメーションを発信したとなれば、これを訂正したり修正したりするのはきわめて難しい。現に、発言した本人はいまでもディスインフォメーションを繰り返している。まさにDishonest Abeの本領発揮ということになる。

 

Dishonest Abeとプーチンの類似性

恐ろしい話を紹介しよう。拙著『ネオKGB帝国』のなかで紹介した話だ。1999年9月、ロシアのブイナクス、モスクワ、ヴォルゴドンスクで爆弾テロが起きた。同年9月22日には、今度はリャザン市でアパート爆破が未然に防止されるという出来事が起きた。これによって、爆破に連邦保安局(FSB)が関与していたことが判明する。これによって、すべての爆破テロがFSBによって仕組まれた疑いが浮上した。当時、首相だったウラジミル・プーチンがその犯人をチェチェンのテロリストと決めつけ、チェチェンへの強硬姿勢を強めることで自らの人気取りに利用した可能性がある。このとき、プーチンが発したディスインフォメーションは「爆破テロはチェチェンのテロリストによる犯行だ」というものであった。

 

この「意図的で不正確な情報」によって、プーチン首相の人気は急上昇し、かれは大統領にまでのぼりつめてゆくのである。

 

これと同じことが日本で起きているとまではいわない。ただ、ディスインフォメーションにしっかりと対峙し、その発信者の責任追及まで行わなければ、プーチンのような人物が日本を支配しかねないのだ。それほど絶大な影響力をディスインフォメーションは発揮する。

 

このようにみてくると、ディスインフォメーションにどう備えるべきか、ディスインフォメーションの発信自体をどう抑制すべきか、といった論点が重要になる。ところが残念ながら、日本ではディスインフォメーションへの理解がまったく進んでいない。だからこそ、わたしは然るべき出版社から拙著『ディスインフォメーション』を上梓しようとしているわけである。

(Visited 136 times, 1 visits today)

コメントは受け付けていません。

サブコンテンツ

塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

このページの先頭へ