ロバート・F・ケネディJrの事実上の大統領選撤退に思うこと
2024年8月23日、無所属候補のロバート・F・ケネディJrは大統領選からの事実上の撤退を発表した。同年4月17日に「現代ビジネス」において、「バイデンでもトランプでもなく、ロバート・F・ケネディJrを応援しようよ!」という記事を公表した私としては、この撤退劇に対する所感をのべておく必要があると考えている。
政治家の右顧左眄
まず、浮かぶのは政治家の右顧左眄である。彼は、自分をより高く買ってくれるのは、カマラ・ハリス陣営なのか、それともドナルド・トランプ陣営なのかについて天秤にかけた。そのうえで、彼は「深く祈った」結果、ドナルド・トランプ前大統領を支持し、彼の選挙運動に参加することを決めたとのべたという(「Wired」を参照)。
いずれにしても、「政治家とはこの程度の者である」ことを再認識させられた。私がケネディJrに期待したのは、ウクライナ戦争終結に対する考え方がトランプに近いからであった。だが、おそらく彼の主張のなかでもっとも核心にあったのは、反ワクチン活動家という面と、環境保護主義者という顔であろう。
どうやら前者については、「もしトラ」後、閣僚になって反ワクチン運動を展開することで多少なりとも、ケネディJr支持者を喜ばせうるかもしれない。だが、後者については、これまで彼を支持してきた人々を裏切ることになったと言える。
「掘れ、ベイビー、掘れ」
もちろん、ケネディJrは、トランプが1期目の任期中に、ケネディJrが何度も強調し、自身の法律業務の多くがこの法律を軸に展開されていた1972年の画期的な法律である「水質浄化法」の保護を劇的に後退させ、環境保護庁への予算を大幅に削減しようとしたことを知っている。にもかかわらず、化石燃料への依存を非難し、石油パイプラインの建設阻止を求めるデモ隊の側に何度も立ったケネディJrは、いまでは「掘れ、ベイビー、掘れ」をスローガンに掲げるキャンペーンの一員となってしまった。
この行動を矛盾なく説明することはできるだろうか。たぶん、トランプと同じように、気候変動が人為の人間活動によるものではないとケネディJrが判断したのであれば、「掘れ、ベイビー、掘れ」側に参加することにした理由もわからないではない。
私自身、気候変動問題についてずっと疑問視する姿勢をとりつづけている。たとえば、「論座」において2020年8月に公開した拙稿「「意識高い系」の「デジタル・ビーガニズム」」のなかで、つぎのように記述しておいた。
「だが、本当は気候変動についての科学的議論はいまなお決着がついていない。Mike Hulme著Why We Disagree About Climate Change: Understanding Controversy, Inaction and Opportunityという本を読めば、それがよくわかる。この本では、「地球温暖化は人間によるものである」という命題をもっともらしく主張してきた国連の下部機関、「気象変動に関する政府間パネル」(Intergovernmental Panel on Climate Change, IPCC)を批判している。IPCCは1988年に国連の世界気象機関(World Meteorological Organization, WMO)と国連環境計画(United Nations Environment Programme, UNEP)によって設立されたもので、国連総会でも承認された。注意すべきことは、この機関は決して科学者によって設立されたものではないことである。ゆえに、IPCCは自ら調査を行うわけではなく、科学者などの調査報告に関する評価をくだす二次機関にすぎない。はっきり言えば、官僚が仕事にありつくための機関であり、地球温暖化による危機を喧伝すればするほど、自らの存在価値を高めることができる。
このパネルは政府や国際機関によって承認された代表者から構成されている。つまり、単独者として、国家を信じない、独立した科学者は排除されていることに留意すべきだろう。こんな構造をもつ機関でありながら、IPCCは米国の政治家、アル・ゴアとともに2007年のノーベル平和賞を受賞したことで、地球温暖化問題の「権威者」であるかのような立場を固める。同年の第4回評価報告書には、「過去50年にわたる地球の平均気温上昇のほとんどは人間の活動にためである可能性がきわめて高い(専門家の判断に基づくと90%以上)」と書いてある。しかし、これはまったくの推測にすぎない。2001年に公表された第3回報告書で、2100年までに上昇する地球の海面が9~88センチから、2007年の第4回報告の18~59センチに修正されたのは、本当に気象変化に対する理解が深まったからなのだろうか。
ここで「大紀元時報」というサイトが2019年9月30日午前11時に「グレタさんを支える環境団体、中国政府の代理人の疑い 沖縄「ジュゴン裁判」も担当」という記事を配信したことを紹介したい(https://www.epochtimes.jp/p/2019/09/47700.html)。この記事によれば、グレタさんの登壇を調整したのは、世界的な法律事務所ハウスフィールドLLP(Hausfeld LLP)および環境保護系の法律事務所アースジャスティス(Earthjustice)の公式代表という。子どもたちによる非難声明は、両所が準備した。とくに、アースジャスティスは中国政府に都合がよく、逆に米国に不都合な活動を米国内外で展開しているとみられている。つまり、少女は政治的に利用されている可能性がある。」
この主張はいまでも基本的に変わっていない。最近でいえば、広瀬隆著「まともな科学者は誰も信じていない CO2温暖化説の嘘ともたらされる被害」(「紙の爆弾」2024年8・9月号掲載)を読んでほしい。そういう意味では、ケネディJrの態度変更は「許容の範囲内」と言えるかもしれない。
リベラル・デモクラシー批判の重要性
私が重視しているのは、「リベラル・デモクラシー批判」である。そもそもケネディJrがトランプ並みのエスタブリッシュメント批判にどのような主張をしてきたかについて、私は知らない。ただ、トランプが「リベラル・デモクラシー」を批判しているのは事実だし、J・D・ヴァンス副大統領候補も同じだ。そう考えると、ケネディJrがトランプ支持に回ったことは、私からみると、不愉快なことではない。
ただ、大統領選との兼ね合いでいうと、ケネディJrがトランプ支持に回ったところで、トランプ票が増えるかどうかをまったくわからない。
ワシントン・ポスト紙は、ABCニュースとイプソスと共同で、ケネディJrの少数の支持者を対象に最近世論調査を実施した。それによると、彼らは、トランプ(15%)よりもハリス(29%)を好意的にみていることがわかった。トランプについては、回答者の41%が否定的な見方をしている。そのため、11月5日の選挙日には、ケネディJrの支持者の多くがただ家にいることを選ぶ可能性が高いという見方もあるのだ。
いずれにしても、ケネディJrの決断は政治家らしいものであり、立腹する対象にはならない。日本にいる部外者からみると、「まあ、仕方ない」といったところか。
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