日本のマスメディアのお粗末さ:イラン報道にみるバカばかりの報道

日本経済新聞社と朝日新聞社で記者を務めていた者として、いまの日本のマスメディアは最低レベルにあると断言できる。目も当てられないほど劣悪だ。イラン大統領のヘリコプター墜落による死亡に絡んで、強く感じたことをここに書いておきたい。

 

発端

5月20日、私はいつものように、ロシア語の新聞を読んでいた。そのとき、不思議に思ったことがある。まず、『ヴェードモスチ』には、文頭、「イランのイブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール・アブドラヒアン外相を乗せたアメリカ製Веll 212ヘリコプターが5月19日、イラン・アゼルバイジャン国境近くのジュルファとベルゼガンの町近くのイラン東アゼルバイジャン州に不時着した」と書かれていた。

ところが、『コメルサント』には、「イランのエブラヒム・ライシ大統領を乗せたMi-171ヘリコプターの墜落事故は、日曜日の夕方、テヘランの北西600キロ、アゼルバイジャンと国境を接するイランの東アゼルバイジャン州の都市ジュルファ近郊で発生した」と記されていた。

要するに、乗っていたヘリコプターが米国製なのか、それともロシア製なのか2説あったことになる。米国製であるならば、長くつづく対イラン制裁が同機の修理を困難にしてきたという問題が生まれるかもしれないし、ロシア製であれば、その安全性に対する不安がますます声高に語られるようになるかもしれない。その意味で、どこ製のヘリコプターに搭乗していたかは決して些細な問題ではないと感じていた。

 

21日の報道

5月21日になって、『コメルサント』は前日の訂正をしないまま、ヘリコプターが米国製Bell 212であることを示す図を掲載した。あまり潔くないかたちで、事実上の訂正をしたことになる。

そこで、他のマスメディアの報道について、ざっと調べることにした。まず、NYTはヘリコプターの機種を明らかにしない書き方をしていた。この姿勢は、日本の主要マスメディアにもみられるもので、間違いをあえて犯さないという点で評価すべき点もあるが、重要な問題を無視する姿勢自体、批判の対象となりうる。

このNYTの「せこい」姿勢に比べると、WPは潔い。しかも、適格だ。「イラン大統領、米国設計のヘリで飛行中に墜落」という記事が2024年5月20日付で公表されている。

記事は、「イランの大統領を乗せて山間部の霧の中を飛行中に墜落したヘリコプターは、国営メディアとワシントン・ポスト紙が検証した写真によると、米国設計のBell 212型機であった」という文ではじまる。まさに、ヘリコプターに焦点を当てた記事となっている。

この記事は大変優れている。これを読めば、重要と思われる情報を手に入れることができるのだ。たとえば、①Bell 212型機は、ベトナム時代の軍用ヘリコプター「ヒューイ」の民間版として広く使用されており、世界中の軍隊や企業で運用されている、②航空データベースのSkybraryによると、このモデルは1968年に初飛行した最大15人乗りの2枚羽根双発中型ヘリコプターである、③イラン当局は、エブラヒム・ライシ大統領ら8人が死亡した墜落の状況についてほとんど情報を提供していないが、「技術的な失敗」が原因だとしている――といったことが書かれている。

これに対して、ロイド・オースティン米国防長官は5月20日、記者団に対し、今回の墜落事故について「米国は何ら関与していない」とのべたという。イラン空軍は、大統領の墜落事故に関与した機体を含む、VIP飛行隊用にこれらの米国設計の航空機を5機保有している、とオランダの航空ウェブサイト『スクランブル』は伝えているという情報も紹介されている。「航空分析会社Ciriumのデータによると、イランに登録されている15機のベル212の平均機齢は35歳で、イランに対する国際的制裁によってメンテナンスが複雑になっている」という指摘まである。

さらに、Ⓐフライト・セーフティ・ファウンデーションが管理するデータベースには、イラン大統領のヘリコプター墜落事故を含め、1972年以来約430件のベル212の事故が記録されており、そのうち162件(40%弱)が死亡事故である、ⒷCiriumによると、世界では144の運航会社によって443機のベル212が使用されており、平均年齢は42歳である――といった情報まで提供されている。

なお、ロイターも5月20日の段階で、「エブラヒム・ライシの死:Bell 212ヘリコプターについて分かっていることは?」という記事を配信している。ヘリコプターそのものについて調べた結果を報道しており、好感をもてる内容となっている。

BBCも5月20日に、「墜落したヘリコプターについてわかっていることは?」という記事を公表している。「イランの国営メディアは、大統領と外相を乗せたヘリコプターはベル212だったと報じている」としたうえで、「そのヘリコプターが何年前のものかは不明だが、このモデルは1960年代にカナダ軍のために開発されたものだ」と伝えている。

 

低劣な日本の主要マスメディア

残念ながら、21日になっても、日本の主要マスメディアのなかで、ここで紹介したWPのようにヘリコプターそのものについて真正面から論じた記事を見つけ出すことはできなかった。NHKは、20日 19時21分に「イラン大統領ヘリ墜落事故 偽情報や根拠不明の情報に注意を」なる記事を配信しているが、ヘリコプターそのものについて詳述した報道を見つけ出すことはできなかった。BBCに比べると、NHKがいかに低レベルであるかがよくわかる。

朝日新聞にしても毎日新聞にしても、ヘリコプターに注目して、真正面から論じるという気概がまったく感じられない。こうした実情こそ、いまの日本のマスメディア全体を覆っている、やる気のなさを象徴しているように思われる。

どうしてこんなバカばかりになってしまったのか。バカがいくら情報を発信しても、低水準の情報では本質に近づくことなどできないのだ。

情けなさだけが募るこの頃だ。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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