プーチンの年次教書演説を解説しよう:バカなマスコミ報道にだまされるな!

例によって、バカばかりの日本のマスメディアはプーチンの年次教書演説について偏った記事を書いている。どうしてこうもマヌケばかりなのだろう。どうか、日本語で書かれたいい加減な記事やテレビ報道にだまされないでほしい。

 

核心は6年計画

だれがみても、真っ当な人であれば、今回の年次教書が大統領選を強く意識して書かれたものであることは一目瞭然だ。任期6年の2030年までの社会経済全般にわたって、プーチンの施政方針が明らかにされているのである。

いくつか、紹介すると、つぎのようになる。

1.2030年までにロシアの貧困率を7%以下にし、大家族の貧困率を半減以上、少なくとも12%にする。

2.2022年には、39の地域で出生率がロシア平均を下回っていた。2030年末までに、これらの地域に少なくとも750億ルーブルを割り当て、家族支援プログラムを充実させる。資金は来年から届き始める。

3.家族ローンプログラムは今年の7月まで有効だ。私は、主な基本条件を維持したまま、2030年まで延長することを提案する。とくに注目すべきは、6歳までの子供がいる家庭で、彼らには優遇ローン金利は変わらず6%を適用する。現在、3人目の子供が生まれた時点で、住宅ローンの一部45万ルーブルを国が返済している。私は、この規定を2030年まで延長することも提案する。

4.私は、2人目の子供の税額控除を月2,800ルーブルに、3人目以降は月6000ルーブルに倍増することを提案する。現在、第一子出産時には63万ルーブル、第二子出産時にはさらに20万2000ルーブルが支給される。出産資金の額は定期的にスライドされる。出産資金プログラムは2026年初めまで有効である。少なくとも2030年まで延長することも提案する。

このように、目前に迫った選挙を前に、プーチンは社会福祉政策の拡充を全面に出した演説をしたのだ。何よりも、この演説の核心はこの点にある。

 

興味をひかれた箇所

こう紹介すれば、年次教書の印象が随分と異なるものになるだろう。NHKは、「「ロシア軍が攻勢」戦果を強調」としているが、まったく本質をとらえていない。朝日新聞は、「ロシアの戦略核戦力は臨戦態勢にある」と、ウクライナを軍事支援する米欧を牽制(けんせい)した」と書いている。しかし、「戦略核戦力は、使用が保証された完全な準備態勢にある。2018年の演説でお話しした軍備の分野で計画していることは、すべて完了し、あるいは最終決定されつつある」といっているだけで、「臨戦態勢にある」などとはいっていない。

年次教書には、2030年までの目標がほかにもたくさん登場する。私がとくに高い関心をもったのは、輸入代替の促進という部分だ。

「1999年、GDPに占める輸入の割合は26%に達し、あらゆるもののほぼ30%を海外から輸入した。昨年はすでにGDPの19%、32兆ルーブルを輸入している。そして現在から2030年までの間に、GDPの17%を超えない輸入水準に達する必要がある。つまり、医薬品、設備機器、機械、自動車など、消費財やその他の物品を自給自足で生産しなければならないのだ。すべてを生産することはできないが、すべてを生産しようと努力する必要はない。しかし、政府は我々が何に取り組むべきかを知っている」という話は今後のロシア経済を展望するうえで興味深い。

「私は、2030年までに、経済と社会領域のすべての主要分野でデジタル・プラットフォームが形成されるべきだと考えている」とか、「国家にとって、このようなテクノロジーと統合プラットフォームは、個々の産業、地域、都市の経済を計画・発展させ、計画や国家プロジェクトを効果的に管理するための大きなチャンスを開くものである」という指摘もおもしろい。「最も重要なことは、各個人、各家族の利益を中心にあらゆるレベルの政府の仕事を継続的に構築し、市民や企業に国や自治体のサービスを積極的に提供し、便利なフォーマットで可能な限り迅速に結果を出すことである」という発言も、2030年までのロシアを展望する視角を教えてくれている。

この問題に関連して、「デジタル・システムを利用するための条件は、巨大都市だけでなく、小さな町、農村部や遠隔地、連邦高速道路や地方高速道路沿いにも必要である。これを実現するためには、現在の10年以内に、ロシアのほぼ全領土に高速インターネット・アクセスを提供する必要がある。私たちは、衛星コンステレーションを1160億ルーブル倍増させ、その開発に1160億ルーブルを割り当てることによって、とりわけこの課題を解決する」という部分も重要だ。これを理解するためには、拙著『知られざる地政学』〈下巻〉に書いておいた「地球低軌道(LEO)衛星利用をめぐって」という箇所をぜひとも読んでほしい。

「2030年まで主要な税制パラメータを固定し、長期的なものを含むあらゆる投資プロジェクトの実施に安定的で予測可能な条件を確保することを提案する」とか、「私は、今後3年間の予算案を作成するだけでなく、2030年までのすべての主要な支出と投資を立案することがすでに必要だと考えている。つまり、国の発展のための6年間の展望に立った財政計画を策定する必要がある」という指摘も、今後の財政計画を立案するうえでキーとなる視角であろう。

 

核兵器配備を否定

軍事について、一つだけメモ代わりに書いておきたいことがある。それは、「最近、ロシアが宇宙に核兵器を配備しようとしているなどという根拠のない非難がますます増えている。このような臆測は――臆測以外の何ものでもないが――米国にだけ有利な独自の条件での交渉に我々を引きずり込むための策略でしかない」という発言である。この発言につづけて、「同時に、15年以上も前から彼らの机の上にあった私たちの提案を妨害している。私が言っているのは、2008年に私たちが作成した「宇宙空間への兵器配備の防止に関する条約案」のことである。何の反応もない。彼らが何を言っているのか、まったく理解できない」と語った。この条約案を私は知らなかったから、この話は記憶にとどめておきたい。

理解してほしいのは、日本のマスメディアが書いていることを読んでも、プーチンの年次教書の本質を知ることにはまったくならないということだ。どうか、だまされないでほしい。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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