世界で人道的支援を必要としているのは約3億人

2023年12月14日、国際救済委員会(IRC)が毎年発表している「緊急ウォッチリスト」が公表された。これは、毎年新たな人道的緊急事態が発生する危険性が最も高い20カ国について、国際救済委員会(IRC)が65の量的・質的変数と、IRCの世界50カ国以上での活動経験から得た質的洞察を駆使した分析的厳密なプロセスに基づいてランク付けしたものである。

昨年上位にランクされたウクライナ、シリア、イエメン、アフガニスタンはトップ10に入っていない。これらの国々で状況が改善したわけではない。むしろ、他の国々では事態が悪化しているのだ。2024年には2億9940万人が人道的支援を必要としており、その86%(2億5800万人)がウォッチリスト掲載国にいる。

下表に示したように、アフリカのスーダン、南スーダン、ブルキナファソ、マリといった国々の状況は悪化している。2023年10月7日のパレスチナ・グループによるイスラエルへの大規模な侵入に続く軍事作戦の一環として、イスラエル軍が多くの「無差別」空爆を行うなど、被占領パレスチナ地域の人道状況が急速に悪化した。ここでは、ガザ地区やウクライナだけではない、世界中で悪化する人道状況について、報告書「緊急ウォッチリスト」を参考にしながら紹介してみたい。

 

表 2024 Emergency Watchlist

 

国名

2023 Emergency Watchlistのランキング

1

スーダン

19

2

被占領パレスチナ地域

 

3

南スーダン

7

4

ブルキナファソ

8

5

ミャンマー

15

6

マリ

14

7

ソマリア

1

8

ニジェール

16

9

エチオピア

2

10

コンゴ民主共和国

4

11

アフガニスタン

3

12

中央アフリカ共和国

11

13

チャド

12

14

エクアドル

 

15

ハイチ

9

16

レバノン

13

17

ナイジェリア

17

18

シリア

6

19

ウクライナ

10

20

イエメン

5

(出所)2024 Emergency Watchlist and 2023 Emergency Watchlist, IRC.

 

スーダン

読者はスーダンの惨状を知っているだろうか。欧米や日本のマスメディアは意図的か、あるいは、無知からか、スーダンの悲惨な状況をほとんど報じない。報告書は、「スーダン軍の対立派閥であるスーダン軍(SAF)と急速支援軍(RSF)の戦闘により、2023年4月の紛争開始前の1580万人に比べ、1年足らずの戦闘で人道的ニーズは2倍以上に増加し、少なくとも2480万人が支援を必要としている」と指摘している。人権団体は、西ダルフール地方での大量殺戮や民族間の強制移住に伴うジェノサイドの危険性を警告しており、スーダン国内および近隣諸国への数百万人の移住をさらに加速させるだろうという。重要なインフラの大規模な破壊がシステム全体の崩壊を促し、何百万人もの人々が食料不足に陥り、重要な医療サービスやその他のサービスを受けられなくなっているのだ。

さらに、「スーダンのレイプと性的暴力のケースは、戦争が始まってから数カ月で急激にエスカレートし、2023年9月までに文書化されたケースは136件に達したが、その数はもっと多い可能性が高い」とも書いている。

 

南スーダン

スーダンの影響により、南スーダンも混乱に陥っている。国境を越えたスーダンの戦争は、同国を緊急監視リストのトップに押し上げ、南スーダンの脆弱な経済を弱体化させる恐れがあり、「2024年12月に予定されている南スーダン初の選挙に向けたすでに微妙な時期に、政治的緊張に拍車をかける可能性がある」と、報告書は指摘している。2024年には高水準の洪水が予測されており、4年間繰り返された悲惨な洪水の影響にさらに拍車がかかることになるという。

スーダンからの避難民は南スーダンやチャドなどに押し寄せている。「150万人がチャドや南スーダンといった近隣の貧しい国に避難している」とThe Economistは書いている。

 

ブルキナファソ

ブルキナファソは、ブルキナベ軍が武装グループの封じ込めに奮闘するなか、国中で暴力が急速に拡大・拡散している。国土のおよそ半分が政府の管理下になく、大サハラのイスラム国(ISGS)やジャマ・ヌスラト・アル=イスラム・ワル・ムスリミン(JNIM)を含む非国家武装集団が都市や町を封鎖し、住民が基本的な物資やサービスを利用することを妨げているという。その結果、国内の多くの地域で食糧不安と貧困レベルが急上昇している。

 

マリ

軍事政権は、大サハラ・イスラム国(ISGS)やジャマ・ヌスラト・アル・イスラム・ワル・ムスリミン(JNIM)をはじめとする武装集団と闘っているが、彼らは都市部を包囲し、住民が基本的な物資やサービスを利用できないようにするなど、市民に壊滅的な被害をもたらす戦術をますますとるようになっている。一方、マリの国連平和維持軍は撤退しつつあり、2024年には北部と中部で治安の悪化と紛争が増加する懸念が高まっている。マリは気候変動の影響にも非常に脆弱であり、食料危機が深刻化しようとしている。

 

ソマリア、ニジェール、エチオピア、コンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国

ソマリアでは、エルニーニョによる広範な洪水がすでに70万人以上を避難させており、2024年初頭まで続く可能性が高い。さらに、武装組織アル・シャバブに対する政府の攻勢がつづいており、民間人への被害や避難を助長する危険性があるほか、他の地域での政情不安も2024年の人道的ニーズを高める可能性がある。

ニジェールでは2023年7月にクーデターが発生し、大規模な情勢不安が発生した。新軍事政権と近隣諸国との間に緊張が高まる一方、西側諸国は治安支援を打ち切り、武装グループの活動が拡大するリスクが高まっている。

エチオピア政府とティグライ人民解放戦線(TPLF)との間の2022年11月の停戦は、エチオピア北部では継続している。しかし、その他の紛争、特に中部オロミア地方と北西部アムハラでは、人道的ニーズが煽られ、大規模な戦闘が再発するリスクが高まっている。そのため、人道的支援を必要とする人々の総数は2023年と比べて約800万人減少するものの、すでに食糧不安に直面している何百万人もの人々が主食を購入することが難しくなるようなインフレがさらに深刻化している。

コンゴ民主共和国では、政治的・地域的緊張が高まるなか、東部で紛争リスクが高まっている。2023年10月以降、東部では、武装勢力M23による攻勢が再開された。

中央アフリカ共和国は、政府軍と武装集団の連合との間で紛争が勃発した2013年以来、長引く人道危機に見舞われている。広範な治安不安の結果、中央アフリカ共和国は高い人道的ニーズが継続的に発生している。政府は、国土の大部分を支配するために武装グループとの戦いを続けており、市民を危険にさらし、避難を促し、必要不可欠なサービスへのアクセスを制限している。2023年7月の憲法改正をめぐる国民投票をめぐる緊張は、新たな政治危機を引き起こした。

 

ミャンマー

アフリカ以外に目を転じてみよう。ミャンマーでは、2021年に軍が政治権力を奪還した後、戦闘が激化、拡大した。2023年10月、三つの主要武装集団が政府との衝突を再開し、国軍は大きな圧力にさらされ、市民への被害が拡大している。報告書には、「最新のエスカレーションが始まって以来、33万5,000人以上が新たに家を失い、全国で200万人以上が避難生活を余儀なくされている」と書かれている。

さらに、2023年5月14日、非常に強い勢力のサイクロン「モカ」がバングラデシュのコックスバザールとミャンマーのラカイン州沿岸部を直撃した。ミャンマー国内にも甚大な影響が出た。

 

アフガニスタン、エクアドル

人道的ニーズは2023年の2920万人から2024年には2330万人に減少するとみられている。それでも、人口の半数以上が依然として人道的ニーズを抱えている。

歴史的に平和な国であったエクアドルが、主に武装集団による暴力の急増に より、初めて緊急監視リストに入った。COVID-19の大流行以来の持続的な経済的圧力と相まって、暴力は生計を蝕み、2024年には貧困と生活困窮の割合を増加させる可能性が高いという。

 

ほかにも、緊急人道支援が必要な国がまだまだある。大切なことは、こうした国々の存在を知ることであり、関心をもちつづけることだと思う。「無知は豊かさの入り口」なのだから、まずは自分の無知を知り、その不明を恥じたうえで、勉強すればいいのだ。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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