米大統領選まで1年を切る:ウクライナよりもイスラエル

アメリカ大統領選までもう1年もない。再選をねらうジョー・バイデン政権の本性について分析してみよう。

 

ガソリン価格が勝敗の鍵

バイデンは米国内のガソリン価格の今後の動向が大統領選の結果に直結することをよく知っている。ゆえに、このところ、イランやベネズエラの原油輸出規制を緩和し、これらの国の原油供給増によって需給関係の逼迫を回避可能な素地づくりをつづけてきた。米国内でのシェールオイルの開発の結果、米国の中東産原油への依存度は低下したが、世界の原油価格の動向は国内の原油価格やその精製によって得られるガソリン価格にも影響をおよぼす。だからこそ、米国政府は原油価格や石油製品価格について大きな関心をもたざるをえないのである。米国内のガソリン価格の高騰は現政権への批判に直結し、バイデン大統領の再選を危うくするのは確実だ。

 

対イラン政策

2023年2月の国際原子力機関(IAEA)報告(「国連安全保障理事会決議2231[2015年]を踏まえたイラン・イスラム共和国における検証と監視」)によると、イランのフォルド燃料濃縮工場(FFEP)での製品サンプリングポイントから環境サンプルを採取し、その分析結果から、最大83.7%のU-235を含む高濃縮ウラン粒子の存在が確認された。IAEAはイランに対し、これらの粒子の起源を明らかにするよう要請した(イランはこれを一瞬のハードウェアの不具合のせいだとし、IAEAはイランがこのような高濃縮ウランを備蓄していた証拠はないとした)。同年5月のIAEA報告では、2023年5月13日現在、六フッ化ウラン形態の濃縮ウラン備蓄総量は4384.8kgと推定されるとされ、民生用には使用できない純度60%まで濃縮したウランを114.1 kg蓄積していることが明らかにされた。これは、イランと米国がまとめた、イランの核兵器保有を阻止するためにイランの核開発計画に検証可能な制限を設けた2015年の「共同包括行動計画」(Joint Comprehensive Plan of Action, JCPOA)、すなわち、3.67%のウランを300kgに制限し、それ以上のウランは保有しないよう制限していた条件からみると、大きな逸脱を意味している。

トランプ大統領(当時)が2018年にイランとの核協定からアメリカを脱退させて以来、米国はイランとの間で新たな交渉を模索してきた。トランプは、厳しい制裁がイランに「新しく永続的な協定」への署名を迫るだろうと主張したのに対して、バイデンは、「より長く、より強力な」協定を作るための賢明な外交を約束した。だが実際には、前述したように、イランは協定を結ぶどころか、これまで以上にウラン濃縮を進め、核武装国家の入り口に立っている。これは、イスラエルにとって最大の脅威であり、座視しえない事態だ。

 

イランによる原油輸出の増加

バイデン政権はイラン政権との間で、JCPOAへの復帰をめぐり、中国、ロシア、ヨーロッパの合意当事国の仲介のもと、最終的な間接協議を行ってきた。2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃がなければ、何らかの合意ができたかもしれない。というのは、バイデン政権誕生後、米国政府はイランによる原油輸出に対して寛容な姿勢をとってきたからである。大統領選が近づけば、ますますイランによる原油輸出の増加によって世界の原油市況を安定化させりょうとする米国側の目論見が強まるとみられていた。

下図に示したように、たしかにイラン産原油の輸出量は、2020年の日量38万バレルからこのところ、140万バレルに急増した月もある。主な輸出先は中国だ。一説には、イランの対中石油販売額は2021年と2022年に合計470億ドルにのぼると推定されている。

この結果、イランの外貨準備は増加している。2021年の国際通貨基金(IMF)の報告書では、2020年のイランの外貨準備高は60億ドル(最新の見積もりでは138億ドル)にすぎなかったが、2023年のイランの外貨準備高は、211億ドルと推定している。さらに、IMFは2024年の外貨準備高は243億ドルになると予測している。

 

 

イランによる原油輸出量の推移(単位:1日あたり100万バレル)

(出所)https://www.economist.com/finance-and-economics/2023/10/25/america-would-struggle-to-break-irans-oil-smuggling-complex

 

イランの出方

注目されるのは、イランが今後、パレスチナとイスラエルの紛争にどう出るかである。そうした状況が米国政府の対イラン産原油に対する規制にも影響をおよぼすだろう。ただ、The Economistによれば、「イラン産原油の取引は、アメリカドルではなく中国通貨で行われるため、制裁の対象にはならない」から、米国が対イラン制裁を強化しても実効性を伴うかどうかはわからない。

原油を輸送するタンカーにしても、所有権は、中国、ベトナム、アラブ首長国連邦(UAE)などで登記されたペーパーカンパニーを通じて偽装されている。その多くは、マレーシアやシンガポールの沖合で積み替えられ、小型船で中国北部に運ばれる。多くの場合、ベネズエラなどの他の原油と混ぜられたり、別の石油化学製品として誤表示されたりしている。

 

ベネズエラに対する軟化

米国政府はベネズエラに対しても軟化の姿勢をみせてきた。2023年10月17日、ニコラス・マドゥロ大統領の独裁政権はバルバドスで野党代表と会談し、今後の自由で公正な選挙の実施方法について合意した。その翌日、米国政府は2019年以来ベネズエラの石油、鉱業、金融部門に課していた厳しい制裁の大半を解除した。その後、5人の政治犯が釈放された。10月22日、野党の予備選挙が行われた。投票率は高く、主催者は200万人以上が投票したと発表した。参加者の92%が、マドゥロ氏のもっとも断固とした批判者の一人であるマリア・コリーナ・マチャドを支持した。

だが、ベネズエラ国民議会のホルヘ・ロドリゲス議長は、野党が運営する予備選挙は「茶番であり、詐欺だ」と宣言し、野党が200万人のベネズエラ人のIDを盗んだと主張した。さらに、タレク・ウィリアム・サーブ検事総長は、第一次投票を組織した者たちを調査していると発表する。そして、10月30日、マドゥロ政権のもうひとつの機関である最高裁判所は、選挙結果を正式に無効とすると宣言した。

もちろん、米国政府も黙ってはいない。「政権が実際に、合意したことに違反した場合」、制裁が再び発動される可能性があると、アントニー・ブリンケン国務長官は主張している。ただし、The Economistは、「9月には5万人のベネズエラ人移民がメキシコ国境を越えて米国に渡り、初めてメキシコ人を上回った。世界的な供給不安のなか、ベネズエラの石油へのアクセスを確保するとともに、バイデン政権はベネズエラ政権に肩入れすることで、移民の流入を食い止めたいと考えているようだ」と書いている。

 

大統領選の勝利のために何でもやるバイデン

ここまでの考察でわかるのは、バイデンが大統領選の勝利のために何でもやろうとしている点である。ただし、そのなかで優先順位が高いのは、はやりユダヤ人への徹底支援ではないか。イスラエル支援のためにイスラエルによる非人道的なパレスチナ人への攻撃に目をつむるのはもちろんのこと、レバノンのヒズボラ対策、イラン牽制など、イスラエルのためであれば、何でもやろうとしているようにみえる。

もちろん、ブリンケンはイスラエルの人道を無視したやり方を抑止する努力を装っている。しかし、本当はユダヤ人の利害だけを優先し、パレスチナの人々の死などどうでもいいという姿勢をとりつづけているのだ。

なぜ米国政府がそこまでユダヤ人を守ろうとするのか。そこに、覇権国アメリカの本性が隠蔽されているのである。

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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