バイデンが命じたノルドストリーム爆破:報道しないマスメディアに喝

米国の「ニューヨーク・タイムズ」も「ワシントン・ポスト」も、ジョー・バイデン大統領が、バルト海海底に敷設されたロシア産天然ガスをドイツに輸送するための「ノルドストリーム」と「ノルドストリーム2」の爆破を命じたとする、シーモア・ハーシュの主張を無視している(2023年2月11日午前8時現在)。前回、ハーシュに対するマスメディアの対応について概観したが、もう一度、マスメディアの報道について書いておきたい。

 

無視を決め込む日本のマスメディア

前回指摘したように、朝日新聞だけはかろうじてハーシュの記事を紹介している。ただし、ロイター電を使った姑息なものにすぎない。しかも、人名を間違えるような劣悪なものだ(https://www.asahi.com/international/reuters/CRWKBN2UI1T2.html)。

それでも、報道しないよりも、報道したほうがいい。興味をもった人がBingをはじめとする検索エンジンを使って調べようとするかもしれないからだ。ところが、何も報道しなければ、このハーシュの大ニュースは日の目をみないまま埋没してしまうかもしれない。BBCもだんまりを決め込んでいる。まあ、NHKは予想通り、報道していない。

興味深いのは、China Daily(https://global.chinadaily.com.cn/a/202302/10/WS63e5cadaa31057c47ebae19e.html)が報じていることだ。「ホワイトハウスが記事に関する火種を消そうとするなか、クレムリンは「結果」を約束した」という意味深長な見出しのもとに、「ロシアが建設した天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」4本のうち3本をアメリカが爆破したとする文字通り爆発的な記事は、ホワイトハウスの否定報道以外、西側メディアではほとんど報道されていない」という文章ではじまっている。これは、的確な報道であろう。中国も「西側」も主権国家の「悪」に対してはきわめて弱いのだ。これが現実である。

ハーシュの記事に対して、比較的まともな批判を掲載しているのがMeduza(https://meduza.io/feature/2023/02/10/zhurnalist-seymur-hersh-poluchal-pulittserovskuyu-premiyu-za-svoi-rassledovaniya-pro-vietnam-a-teper-obvinil-vlasti-ssha-v-podryve-severnyh-potokov)である。「この調査のどこが問題なのか?」として、「熱狂的な反共主義者」ストルテンベルグはベトナム戦争以来、米国情報機関と連携してきたとジャーナリストは主張しているが、1975年4月、最後のアメリカ人とその同盟国がサイゴンから避難したとき、イェンス・ストルテンベルグはまだ16歳だったのだと書いている。彼は、むしろノルウェーのマルクス・レーニン主義労働者共産党の青年組織の活動家である姉のカミラとともに、戦争反対のデモにも足を運ぶ共産主義者であったのだ、というような反論を紹介している。まあ、些末な部分を攻撃しているだけだから、この手の批判は気にする必要はないだろう。

さらに、海洋犯罪を取材する団体「The Outlaw Ocean Project」のジャーナリスト、ジョー・ガルヴィンの指摘が示されている。すなわち、①ノルウェー海軍はアルタ級掃海艇を3隻就航させている(ハーシュが書いた掃海艇はこれだ)。公的な記録によると、BALTOPS22演習(=2022年6月5日から17日まで)の間、ノルドストリームが爆発した地域に現れた者は一人もいない。そこには別クラスの掃海艇オクセイが現れたが、ダイバーが乗り込んでいれば必要なボーンホルム周辺に滞留することはなかった、②ポセイドンP8偵察機は爆発のあった場所に現れたが、爆発の前ではなく後であった。それに、ノルウェー語ではなく、アメリカ語だった。ノルウェー空軍は、その前のバージョンの機体であるP3オリオンをまだ使っている。すでに2022年初頭にP8-Aを一括調達していたが、乗組員の訓練に時間がかかるため、最初の新型機が戦闘任務に就くのは2023年初頭になる予定であった――という2点である。

この批判の真偽について、私は判断できない。こうした批判を含めて、ハーシュの主張の真偽を徹底的に調査するのが「真のジャーナリスト」だろう。

 

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」

どうか、スティーブン・スピルバーグ監督の「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」を観てほしい。そして、リチャード・ニクソン大統領という権力者に対して、NYTとともに立ち向かったジャーナリズムの気概を思い起こしてほしい。

私は、日本経済新聞のへっぴり腰、朝日新聞の官僚主義にあきあきして会社を辞めた。まあ、この2社にも尊敬できるジャーナリストは数名いたが、彼らはみないまはいない。

せめてアメリカのジャーナリズムに期待したいところだが、それができるかどうか。それが第三次世界大戦を食い止めるわずかなきっかけになるかもしれない。たぶん、ここ数週間以内のうちに、ハーシュの主張を裏づけるような報道ができなければ、米国のジャーナリズムも日本と同様に「死んだ」と言わざるをえないだろう。

 

バイデン主犯説に賛成

私は、前回の記事で紹介したように、独立言論フォーラムのサイトで公開した拙稿「制裁をめぐる補論:『復讐としてのウクライナ戦争』で書き足りなかったこと 〈下〉」(https://isfweb.org/post-14462/)のなかで、「なお、ここまでの説明から、爆破の犯人が米国政府である可能性を排除することはできないと指摘しておきたい」と書いておいた。穏当な表現にとどめているが、私はずっと米国主犯説をとっている。ロシア軍が英国犯人説をとっていたので、米英共犯くらいがもっともありうると感じていた。これにポーランドを加えれば、もっとも怪しい3カ国ということになる。

いずれにしても、ノルドストリーム爆破事件はバイデン主犯であるというハーシュの主張に私は賛成する。

 

本当の専門家の話

最後に、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)を書いた専門家であり、かつてマーシャル・ゴールドマンハーバード大学教授が書いたPetrostate(Oxford University Press, 2008)のなかで紹介された者として、あるいは、ロシア科学アカデミー・中央数理経済研究所が中心となって刊行している学術誌『現代ロシアの経済学』の編集委員を一橋大学経済研究所の西村可明先生の後任として務めていた者として、ノルドストリームについては、私よりも専門的知識をもつ者はいないと信じている。

こんな私からみると、いまの日本のマスメディアは腐り切っている。あるいは不勉強すぎる。何しろ、ノルドストリームの建設に際して、米国政府や議会の行った数々の「いやがらせ」を知らないまま、くだらぬ論評しかできない「似非専門家」しかテレビやラジオに登場しないのだから。

そんな想いから、私は小さな会合や講演会のかたちで、本当の専門家の見方を訴えかけることにした。ウクライナ戦争にかかわってテレビや新聞に登場する人物の99%は「似非専門家」でしかない。『プーチン3.0』、『ウクライナ3.0』、『復讐としてのウクライナ戦争』という3部作を書いた者の責任として、「本当の専門家」の見方をこちらから積極的に開陳することにした。興味のある人は「システム・ブレーン」の私の紹介サイト(https://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-19202.htm)にアクセスしてみてほしい。

 

 

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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