いい加減にしろ、マスコミ!:ウクライナ侵攻報道で
ウクライナ情勢をめぐって、日本のマスメディアは欧米と同じく米国政府によるディスインフォメーションを真に受けた出鱈目な報道を繰り返している。ゆえに、「いい加減にしろ、マスコミ!」と喝をいれたくなった。
わたしの立場は、すでに「論座」において、「米ロ首脳会談をどう解釈すべきか」(https://webronza.asahi.com/politics/articles/2021121700003.html)および「「「ロシアのウクライナ侵攻」はディスインフォメーション」(https://webronza.asahi.com/politics/articles/2022012400001.html)という拙稿で明らかにしている。
ここでは、実際の報道のひどさを具体的に批判してみたい。看過するにはひどすぎる間違いがみられるからである。
1.花田吉隆著「米国の衰えを突いたプーチンのカケ~戦後の国際秩序維持の構図が覆される危機」(https://webronza.asahi.com/politics/articles/2021122900005.html)
文頭の2行目に、「年明け早々にも、ウクライナへの侵攻が行われるだろうとの見方が現実味を帯びる」と書きながら、その根拠がまったく明らかではない。しかも、事実として2022年1月下旬になってもウクライナへの侵攻は起きていない。おい、どうなっていんだ!
2.池上彰著「ロシア軍、ウクライナ侵攻?」『週刊文春』(2021年12月23日号)
「ロシア軍が新年早々にもウクライナに侵攻する準備をしている。最大17万5000人を動員した本格的な軍事侵攻の計画だ」という出だしのあとに、「これは、アメリカの情報機関がまとめた報告だとして、今月3日、アメリカの「ワシントン・ポスト」が報じたニュースです」とつづけるだけだ。この記事のリーク源について調べるという努力さえしていない。その結果、まったくいい加減なことを書いて、最後に、「アメリカへの世界の信頼が揺らぐことなく、戦争に発展しない道はあるのか。年明けが心配です」とまとめている。
わたしに言わせれば、この時点では、年明けのことなどまったく心配する必要はなかったはずだ。なぜなら、年明けに米ロ協議が予定されており、戦争なんか起きるはずもなかったからである。
こんな二流、三流の人物がジャーナリスト面をしているところに、日本国民の不幸があると言えるだろう。
3.石川陽平著「緊迫するウクライナ情勢 ロシア、なぜここまで強硬?」『日本経済新聞』(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR19DMP0Z10C22A1000000/)
本日、たまたま目にした記事のひどさを指摘しておこう。この特派員はものごとの見方、視角について考えたことのない愚か者と言えるだろう。戦争のような事態においては、双方の立場について慎重に熟慮してみることがもっとも大切だ。そうすれば、「ロシアの強硬さ」が問題なのではなく、米国政府の仕掛けているディスインフォメーション工作に大きな問題があることに気づくはずなのだ。
問題の原点はヌーランド
昨日、『潮』の編集者から、原稿を依頼された。そこで、メモ書きのようなものを書いて、いま構想を練りはじめている。明らかなことは、今回のウクライナ侵攻に絡む元凶がヴィクトリア・ヌーランド米国務省次官であることだ。逆に言えば、彼女のことを理解しなければ、今回の騒動を理解することはできないだろう。
メモとして書いた部分を紹介してみよう。
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もともとは、ウクライナの国防諜報局の長官がまとめた、ロシアによるウクライナ侵攻に関する想定を米国側に提供したことが発端だ。その攻撃計画想定は、空爆、砲撃、装甲攻撃に続いて、東部での空挺攻撃、オデッサとマリウポリでの水陸両用攻撃、隣国ベラルーシでの小規模な侵攻を伴うというものであった。
ところが、いつの間にか、その侵攻計画がロシア政府によって策定された計画そのものであるかのように誤解され、ロシアが全面的なウクライナ侵攻を計画しているかのような情報が「ワシントン・ポスト」によって大々的に伝えられる。二〇二一年十二月三日のことである。
米政府高官のリークに基づくこの報道こそ、ヌーランドの仕組んだディスインフォメーション工作であると、筆者は考えている。十二月七日に上院外交委員会で彼女の強気な発言が「ワシントン・ポスト」の内容に酷似しているからだ。
「プーチン憎し」のヌーランド
今回の騒動を理解するには、二〇一四年に表面化したウクライナ危機を知る必要がある。このとき、ヌーランドは国務省次官補を務めており、ウクライナのナショナリストを煽って、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領(当時)を武力で駆逐することに成功する。
だが、ナショナリズムを刺激したことで、ウクライナに多く住んでいたロシア系住民への危害が増え、それがロシア系住民の保護を名目とするウラジーミル・プーチン大統領によるクリミア半島併合につながった(拙著『ウクライナ・ゲート』、『ウクライナ2.0』を参照)。事実上のクーデターを主導したヌーランドは政権交代には成功したが、クリミア喪失や、東部ドンバスでの紛争継続の元凶となったのである。
彼女はいわゆる「ネオコン」(新保守主義ないし新保守主義者を指す)の一人だ。同じユダヤ系の夫ロバート・ケーガンはネオコンの論客で、長く定期的に「ワシントン・ポスト」に投稿してきた。だかそこそ、リーク先が同紙であったと考えられる。
ここで、「ネオコンにはユダヤ系の知識人が多く、現実にイスラエル政府とのつながりを持つ者も多かった」という渡部恒雄著『「今のアメリカ」がわかる本』の指摘が重要な意味をもつ。ネオコンの多くは反社会主義の立場から反ソ連であり、それが反ロシアとなってつづいている。
女傑ヌーランドの怖さ
このヌーランドの女傑ぶりはよく知られている。たとえば、彼女は二〇一三年十二月と二〇一四年一月、首都キエフの広場マイダンに集まった反政府勢力を激励した。暴力集団であると知りながら、彼女は彼らにビスケットなどを配り、公 然と支援したのである。
これは、いわば、霞ヶ関で反原発を訴えてピケをはる人々のところに、中国外務省幹部が激励にくるようなもので、きわめて異常な出来事であった。
まだある。反政府勢力がキエフに集まって抗議活動を展開したころ、当時のウクライナ首相ミコラ・アザロフに、ヌーランドは「抗議者に暴力をふるうな。さもなければ、あんたはつぶれるよ」と語り、ウクライナやその指導者に対する厳しい政治経済的制裁を科すと恫喝した。抗議者に暴力をふるうようなことがあれば、「あんたやあんたのダチがウクライナから奪ったカネの情報を公にしてやるから」と脅したのだという。
こんな人物だから、今回も、彼女はさまざまなかたちで恫喝しまくっていると想像される。しかし、そのねらいはどこにあるのか。
ヌーランドのねらい
断定はできないが、ヌーランドは少なくともドンバス、さらにクリミア半島のウクライナへの奪還をねらっているはずだ。過去の自分の失敗への復讐として、宿敵プーチンに一泡吹かせたいはずだ。しかもその過程で、米国の「分断」が「統一」へと向かえば、苦戦の予想されている中間選挙への追い風となる。
そのため、プーチンによるウクライナ全面侵攻を騒ぎ立てることで、北大西洋条約機構(NATO)をも巻き込みながら、ドンバス地域などで戦闘を激化させてロシア軍を撃破し、その一部を奪還しようとしているようにみえる。
間違えてはならないことは、決してプーチン側が戦闘行為を仕掛けているのはないということだ。むしろ、米国にとって、あるいは、ヌーランドにとって都合のいい戦闘を引き起こそうとしているのではないか。
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この女はいま、NATO諸国に対して恫喝をつづけているに違いない。だからこそ、NATO加盟国もウクライナ支援に相次いで乗り出している。
それにしても、ヌーランドは何をどうしようとしているのだろうか。
依頼された原稿の締め切りまではまだ時間がある。これから、しばらくの間、じっくりとウクライナ情勢を見極めたいと思う。
それにしてもマスメディアの報道はひどい。これからも、目に余る報道は実名入りで厳しく批判したいと考えている。
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