右翼ポピュリズム政党「日本維新の会」の躍進はマスメディアの責任の重大さを教えてくれる
大阪のしょぼい「地域政党」とばかり思われていた「日本維新の会」が衆院選で躍進した。この出来事は日本の将来について多くの教訓を残したような気がする。ここでは、この教訓について論じてみたい。
右翼ポピュリズム政党「日本維新の会」
2021年11月1日付の「ザ・ガーディアン電子版」は、「日本の選挙:大阪では右派ポピュリストが票を獲得 日本維新の会(Japan Innovation party)、議席数を約4倍に増やして衆議院第三党に」という記事を掲載した。
ポピュリズムとは、吉田徹著『ポピュリズムを考える』(NHK出版)によれば、「既存の権力の在り処を非難して、その価値体系を丸ごとひっくり返そうとする「否定の政治」」である。そこで利用される共通の手法には、①政治・経済・文化エリートに対する異議申し立て、②主権者として代表されていない人々の顕揚、③カリスマ的な指導者による煽動――だ。
「大阪維新の会」や「日本維新の会」を主導した橋下徹なる人物が当初、「カリスマ指導者」を務めていたが、その政界引退とともに、吉村洋文といういまの大阪府知事がその役割を担うようになっている。
その吉村について、「ザ・ガーディアン」はつぎのように紹介している。
「昨年、コロナウイルスに効果があると誤って主張し、ヨウ素うがい薬のパニック買いを引き起こしたにもかかわらず、ある党員が「ポップアイドル」と表現したように、パンデミックの最中、そのリーダーシップとコミュニケーション能力で称賛を受けた。」
選挙結果
衆院選の結果について、11月1日付の「朝日新聞電子版」は「維新が政権批判票を取り込み躍進 「改革の必要性、全国に伝わった」」(https://digital.asahi.com/articles/ASPC10PZTPBZPTIL01L.html)という記事のなかで、つぎのように書いている。
「日本維新の会は小選挙区94人、比例単独2人の計96人を擁立した。このうち30人を擁立した近畿で特に支持が広がった。
大阪府では、公明候補がいる4選挙区を除く15選挙区で候補を立て、自民や立憲の前職らと争い、全ての選挙区で勝利が確実な見通しとなった。前回の3議席から大幅に伸ばした。1996年の小選挙区導入以降、自民は初めて府内の小選挙区で全敗した。
維新は兵庫県では、12選挙区のうち9選挙区に擁立。前回は自民が10、公明が2選挙区で勝って自公で全てを制したが、今回は維新が1選挙区で勝利した。
比例区では、維新は近畿ブロック以外でも議席を獲得した。」
ここでショッキングなのは、自民党の大阪府内での全敗という現象だ。まさに、既存権力への「否定の政治」が勝利した格好になっている。
知られざる公約
「日本維新の会」のマニフェストには、「維新八策」なるものがある。そのなかには、「憲法改正に正面から挑み、時代に適した「今の憲法」へ」という項目もある。そのなかに、「国民に愛される、歴史と伝統に根ざした皇室制度を維持」なる文言も紛れ込ませている。「憲法は時代に適したものに変える一方で、皇室は歴史に根ざしたままなのかよ」という感想をもつのは筆者だけではないだろう。
「現実に立脚し、世界に貢献する外交・安全保障」なる項目には、「防衛費のGDP1%を撤廃」と明記されている。
これでは、軍備増強と皇室復興という「右翼」の本義そのままではないか。ゆえに、「ザ・ガーディアン」は「日本維新の会」を「右翼ポピュリズム」の政党とみなしたのであろう。
大阪のマスメディアは何をしていたのか
きわめて不可思議なのは、大阪のマスメディアの「日本維新の会」への報道姿勢である。「大阪の医療・保健所 崩壊招いた維新政治 命とくらしを守る公務員を確保する政治へ」(https://www.jcp-osaka.jp/osaka_now/18420)という日本共産党大阪府委員会の記事を読めば、「維新政治」がいかに大阪府民の「命」を軽視してきたがわかるだろう。
その証拠に、人口1000人あたりの感染症死亡者をみると、全国平均8.03人に対して、もっと高かったのが北海道の13.33人、ついで大阪府が11.99人となっている(https://news.yahoo.co.jp/articles/9b58fab3d672c1d63b8003a5b093b3392df22ca9?page=3)。つまり、まさに「維新政治」の無策・失策が大阪府民の命を奪ったのだ。
こんな事実を大阪のマスメディアはきちんと報道してきたのだろうか。
ついでに言えば、大阪都構想が住民投票で「反対」多数で否決されたにもかかわらず、「維新政治」が必要だったのか。松井なにがしが引退するだけでは、まったく反省したことにはなっていないのではないか。
辻元清美への誹謗中傷
「日本維新の会」がまさに右翼ポピュリズムの政党だと感じさせたのは、辻元清美前衆院議員への誹謗中傷だろう。世界の右翼ポピュリストはSNSを駆使して自分たちの嘘を嘘でないかのように喧伝することを特徴としているのだ。
「毎日新聞電子版」に掲載された「落選、辻元清美さん「朝、つらいんよ」 「過信」に超反省モード」(https://mainichi.jp/articles/20211104/k00/00m/010/287000c)にある、つぎの辻本の発言の意味は重い。
「維新の私に対する集中砲火は恐ろしいほどでね。私を中傷するようなことをマイクでがなり立てられたの。私、吉村(洋文)知事の応援演説を聞いた。大阪が新型コロナウイルスの感染拡大で大変なとき私は何もやっていなかったかのように断じている。そんなことない。ワクチンバス・タクシーの運行のため国交省とかけあったり、大阪に看護師を送る要請なども国政から必死でやって100人以上の方が他府県から助けにも来てくださった。それなのに、ひたすら私への憎悪をあおり、有権者の分断を図る。トランプ米大統領に似てるなと思った。」
筆者は、匿名の意見を読むことはない。実名であっても、バカだと思う意見は無視する。忙しい筆者にとって、くだらない議論にかかわることさえ時間の無駄に感じられる。こんな筆者は、SNSで大量に流されている匿名のマヌケな情報に惑わされる人が多いことに強い違和感をもっている。情報を読み解くためのリテラシー教育からやり直さなければならないのかもしれない。同時に、批判すべきは批判するというマスメディアのもっとも大切な機能を回復させるための方法についても再考しなければならない。
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