サイバーセキュリティをめぐる国会審議について

サイバーセキュリティをめぐる国会審議について

塩原俊彦

今国会で審議予定のサイバーセキュリティ基本法改正案の担当、桜田義孝大臣の無能さが問題になっている。もちろん、こんな人物を大臣にした安倍晋三首相の責任はきわめて重大だが、それ以上に、まともな審議をできない国会そのものに呆然とする想いだ。

官民の協議会設置などを盛り込んだ改正案が議論されるというのだが、いまなにを議論するべきかという観点からみると、まったく笑止千万な状況にある。世界のサイバーセキュリティ問題の関心からみると、日本は遅れすぎている。はっきり言えば、大臣も議員もバカばかりなのである。

 

国連決議問題

いま現在、サイバー空間をめぐっては国家がどのように介入すべきかをめぐって国家間の駆け引きの真っ只中にある。2018年11月9日、国連総会の第一委員会はロシアおよび米国によって主導されたそれぞれの決議提案を承認した。米国の決議提案は、「国際安全保障という文脈でのサイバー空間での国家の責任ある行動の推進」をねらったもので、2015年の政府専門家グループ(GGE)報告に沿ったものである。これに対して、ロシアの決議提案は「国際安全保障という文脈での情報・通信分野の発展」と題されており、米国はこうした広範囲に解釈されかねない言葉遣いに反発している。加えて、核発電所などの重要施設へのサイバー攻撃禁止など、具体的な国家による干渉を規定しており、国家によるサイバー空間への干渉を広範囲に明確に認める決議を通そうとしている。米ロがサイバー空間をめぐる国家の立ち位置をめぐって対立しているのだ。

日本は米国案に賛成したが、ロシアの提案には反対した。それはなぜか。ぜひとも国会で議論してほしい。

 

「サイバー空間の信頼性と安全性のためのパリ呼びかけ」

さらに、11月12日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はパリで開催されたインターネット・ガバナンス・フォーラム(ユネスコ主催)で、「サイバー空間の信頼性と安全性のためのパリ呼びかけ」を発表し、51カ国および370以上のNGOや会社などが署名した。米中ロともに署名しなかったが、日本は署名したし、英国も署名した。この呼びかけはサイバー空間への国家干渉をある程度認める方向性を明確に示しているが、サイバー空間に対する国家干渉をめぐって対立関係にある米ロはこの分野での主導権争いをしており、二国とも署名を拒否した。

この呼びかけはフランス政府だけでなく、2018年4月に「サーバーセキュリテイ・テック・アコード」を公表したマイクロソフトが主導して作成されたものである。「不正なサイバー活動を通じた選挙過程への打撃を与えることをねらった外国主体による不正な干渉を防ぐ」といったことにも協力してあたることが盛り込まれている。しかし、知的所有権の侵害防止といった措置が表現の自由への過度の侵害にならないかといった問題をかかえた内容になっている面もある。

ロシア政府は2001年に欧州評議会で締結されたサイバー犯罪条約(通称ブダペスト条約)に国内の犯罪捜査権への介入を恐れて署名しなかった過去がある。それでも、国家によるサイバー空間規制には積極的で、2011年には独自の条約案「国際情報安全保障条約」を国連に提案したこともある。中国は「グレート・チャイニーズ・ファイアウォール」(金盾工程)によるサイバー空間規制に以前から乗り出しており、インターネット上の監視や検閲も実施していることから、国家によるサイバー空間規制を積極的に支持する立場にある。

日本政府は米国政府の「金魚の糞」の立ち位置を今後もつづけるのか。それとも、フランスの主張を支持し、政府によるサイバー空間への干渉をより明確化しつつ、中ロのような国家規制には反対するのか。どうもはっきりしない。だからこそ、しっかりした議論を国会でしてほしいのだ。

わたしは2015年に「サイバー空間と国家主権」という論文を書いた。官僚や御用学者からは無視されている論文だが、心ある学者からは高く評価されている論文だ。こうした先行業績を踏まえて、国家によるサイバー空間への安易な干渉をどう抑止するかについて真摯な議論をしてほしい。

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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