バイデンとプーチンの興味深い発言について

2023年11月18日付の「ワシントン・ポスト」に、ジョー・バイデン大統領の意見表明「米国はプーチンとハマスの挑戦から引き下がらない」が掲載された。例によって、この男は、つぎのような不穏当なことを平然と書いている。

 

「私たちは、前世紀の二つの世界大戦から、ヨーロッパへの侵略が収まらないとき、危機が燃え尽きることはないことを知っている。危機はアメリカを直接引き込む。だからこそ、今日のウクライナへのコミットメントは、われわれ自身の安全保障への投資(investment)なのだ。明日の紛争を未然に防ぐことができるのだ。」

 

この「投資」という言葉は、カネ儲けに使う言葉であり、カネという利益のために何でもするという、バイデンの本質を如実に表している(ウクライナ支援に「投資」という言葉を使ったウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長のような小粒な政治家を批判したのが拙稿「小粒な政治家が多すぎる世界の政治」である。)。

こうした言葉遣いには、バイデンが早くからユダヤ系の大富豪と「友好関係」にあったことが関係している。ユダヤ人がみなカネに換算してものごとを判断するというわけではない。だが、安全保障を「投資」とみなす視線は何か異常なものを感じさせる。そこに、カネ儲けを優先させる冷徹さを強く感じるのである。そうした世界と結びついているバイデンは、利他主義者というよりも、自分だけの利益を優先する利己的な「ケチな野郎」のようにみえる。

 

バイデン:「私はシオニストである」

2023年10月21日付のロイター電は、つぎのように報じている。

 

「ジョー・バイデンがイスラエル訪問中にベンヤミン・ネタニヤフ首相とその戦争内閣と会談した際、アメリカ大統領はこう断言した: 「私は、シオニストであるためにユダヤ人である必要はないと思う。そして、私はシオニストである」(I don’t believe you have to be a Jew to be a Zionist, and I am a Zionist.)」

 

この恐るべき発言は、バイデンがバラク・オバマ政権下の副大統領としてウクライナを担当していた際、そこでのクーデターを彼およびヴィクトリア・ヌーランド国務次官補らが支援した事実に符合している。バイデンもヌーランドも、米国のエスタブリッシュメントたるユダヤ系米国人の手先としてソ連・ロシア嫌いであったとみなせばいい。長年の敵、ロシアに対しては、武力攻撃はやむをえない手段であった。

拙著『復讐としてのウクライナ戦争』で論じたように、まず、ヌーランドは「ネオコン」(新保守主義者)に属している。ネオコンの源流については、1970年代にシカゴ大学の政治学者レオ・シュトラウスとイェール大学の古典学者ドナルド・ケーガンの影響を受けた数人の知識人のグループを中心に発生した。前者は1937年に米国に移住したドイツ生まれのユダヤ人であり、後者はリトアニア生まれのユダヤ系で、幼少期に米国に移住した。ネオコンの指導者には、ノーマン・ポドレツ、アーヴィング・クリストル、ポール・ウォルフォウィッツ、ロバート・ケーガン(ドナルドの息子)、フレデリック・ケーガン(ドナルドの息子)、ヴィクトリア・ヌーランド(ロバートの妻)、エリオット・アブラムズ、キンバリー・アレン・ケーガン(フレデリックの妻)などがいる。

こうしたユダヤ系米国人は、ソ連・ロシアへの深い怨念・恨みをいだいている。『復讐としてのウクライナ戦争』に記したように、「ロシア革命はロシア国内の少数民族であったユダヤ人を帝政の迫害から解放することをねらいとしており、亡命ユダヤ人革命家らがユダヤ系国際金融資本家(ヤコブ・シフ、ポール・ウォーバーグ、バーナード・バルークなど)の援助を得て成し遂げた革命であったと言えなくもない」が、そうしたユダヤ人らを迫害・殺害したグルジア人であるスターリンはまさに「仇」であった。

スターリンによる農業集団化の過程で、ウクライナでは、「ホロドモール」(ウクライナ語Голодомор、英語Holodomor)と呼ばれる飢饉による殺害があったことも決して忘れてはならない。「ウクライナの人々のジェノサイド」のなかに、ユダヤ人がどの程度含まれているのかは判然としないが、このホロドモールはウクライナ人にとってもユダヤ人にとってもソ連・ロシアを「仇」ないし「敵」とみなすに十分であった。

これとは別に、ロシア語には「ポグロム」という言葉がある。この言葉はもともと、19世紀から20世紀にかけてロシア帝国内(主に入植地圏)で起こったユダヤ人に対する攻撃を説明する言葉として英語などの欧州言語のなかにも浸透するようになったものだ。つまり、頻繁に、ユダヤ人攻撃がロシア帝国内で起きていたという「遺恨」もある。

ここでいうネオコンの特徴は、拙著『ウクライナ・ゲート』に書いたように、①世界を善悪二元論的な対立構図でとらえ、外交政策に道義的な明快さを求める、②中東をはじめとする世界の自由化、民主化など、米国の考える「道義的な善」を実現するため、米国は己の力を積極的に使うべきだと考える、③必要なら単独で専制的に軍事力を行使することもいとわない、④国際的な条約や協定、国連などの国際機関は、米国の行動の自由を束縛する存在として否定的にみなし、国際協調主義には極めて懐疑的――というものだ(西村陽一著『「ネオコンたちの戦争」『イラク戦争:検証と展望』岩波書店, 2003)。

 

ユダヤ系べったりのバイデン

こうしたネオコンの主張に寄り添い、結果的にユダヤ系の富豪に傾きつづけてきたのがバイデンということになる。バイデンは大統領に就任すると、ヌーランドを国務省次官に据え、まさにネオコンのいう「軍事力の行使」に向けて舵を切ったと考えることができる。それが、ウクライナ戦争を引き起こす遠因となったとみなすことができる。

なお、拙著『復讐としてのウクライナ戦争』では、ジェフリー・サックスの主張を紹介し、つぎのように記述しておいた(なお、日本でもっとも早く彼の論考に注目したのは私である。このサイトの「現状報告とマヌケなマスメディアへ:サックスの小論は必読だ」を参照)。

 

「サックスは、「バイデン政権は、セルビア(1999年)、アフガニスタン(2001年)、イラク(2003年)、シリア(2011年)、リビア(2011年)でアメリカが選択した戦争を支持し、ロシアのウクライナ侵攻を誘発するために多くのことを行ったのと同じネオコンで占められている」と指摘したうえで、「ネオコンの実績は容赦なき失敗のひとつだが、バイデンは自分のチームをネオコンで固めている」という。さらに、「その結果、バイデンはウクライナ、米国、そして欧州連合を、またもや地政学的大失敗へと向かわせようとしている。もしヨーロッパに洞察力があれば、このような米国の外交政策の大失敗から自らを切り離すだろう」とまでのべている。」

 

こんなバイデンはユダヤ系から多額の政治献金を受けてきた。先のロイター電は、「『オープン・シークレット』のデータベースによれば、バイデンは上院での36年間、親イスラエル団体から史上最大の献金、420万ドルを受け取っている」と伝えている。こんなバイデンがユダヤ系の富豪の意向を最優先にしてきた事実こそ、いまのバイデン政権の本質なのである。

 

親イスラエルを前提とする米エスタブリッシュメント

ついでに、米国における親イスラエル、親ユダヤ系のエスタブリッシュメントについて説明しておこう。偶然だが、興味深い動きが最近起きた。反ユダヤ主義的な投稿を支持したイーロン・マスクのツイートに反発した広告主がXから相次いで撤退している。ディズニー、アップル、ライオンズゲートは、イーロン・マスクが自身のソーシャルメディア・プラットフォーム上で反ユダヤ主義的な罵詈雑言を浴びせる騒動に直面したため、X(旧ツイッター)でのマーケティングを中止した。IBMは2023年11月16日、Xへの広告費約100万ドルを今年いっぱいで打ち切ると発表した(NYT)。ホワイトハウスは11月17日、「反ユダヤ的で人種差別的な憎悪」を広めたイーロン・マスクを非難した(NYT)。ワーナー・ブラザースとソニーも追随した(NYT)。

こうした動きをみると、米国内に多くの親イスラエル的な富豪がいることがわかる。そして、その影響力を知っているからこそ、ソニーのような企業もいち早く親イスラエル的な行動に舵を切ることで、ビジネス上の安泰につなげようとするのである。

気づいてほしいのは、こうした一部のエスタブリッシュメントが世界全体におよぼしている影響力の大きさだ。こうした既存のエスタブリッシュメントに猛然と反旗を翻しているのがドナルド・トランプだということを確認しておきたい。

 

興味深いプーチン発言

まったく別の話を書いておきたい。それは、2023年11月17日、第9回サンクトペテルブルグ国際文化フォーラム-文化連合フォーラムの本会議に出席したウラジーミル・プーチンが行った発言についてである。

彼はつぎのようにのべた。プーチンのこの日の発言すべてのなかで、私がラインマーカーを引いてもっとも注視したのはつぎの部分である。

 

「結局のところ、多くの国、とくにヨーロッパ諸国と米国が持っている富は、もちろん、過去の世界と過去の世界秩序の不正義、植民地主義、奴隷制の上に成り立っています。ある時点で人類の一部が得た技術的優位性(технологические преимущества)は、公正に利用されたのではなく、支配を強化するために利用された。この試みは今日まで続いている。重要なこと、しかしまだ二次的なことを脇に置けば、これが起こっていることの本質である。これが、今起きていることの本質なのだ。」

 

この指摘は、拙著『知られざる地政学』(上下巻)において、科学による技術的優位性を利用しようとしてきた覇権国アメリカという視角に通じている。欧米諸国の「外部」に位置するプーチンは、その「外部」からこそ、覇権国アメリカの「本質」に気づくことができたといえる。

逆にいうと、覇権国アメリカが支配する世界に住み、その世界に迎合するだけの人々は米国主導の支配の仕組みに気づかぬまま、覇権国アメリカの技術的優位性を基軸とする世界の「力の構造」のなかに組み込まれているにすぎない。

ロシア政府によって拉致された経験をもつ私は、プーチンを憎み、軽蔑している。しかし、彼のこの発言は真っ当だ。プーチンの言葉は、「外部」から「内部」を俯瞰する必要性を示してくれている。こうした視角をもてる人物が、欧米諸国や日本に住む人のなかからも出てほしい。それが私の希望であり、拙著『知られざる地政学』を書いた理由でもある。

 

 

 

 

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塩原 俊彦

(21世紀龍馬会代表)

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