『リトル・ブラザー』の衝撃:「遅れてきた青年」からの「戯言」
たったいま、コリイ・ドクトロウ著『リトル・ブラザー』(金子浩訳、早川書房)を読了した。なぜこの本を手にとったのかというと、彼の近著Attack Surfaceを読む前の「準備運動」をしたかったからだ。興味をもった人は、2020年10月12日にwired.comにアップロードされた記事His Writing Radicalized Young Hackers. Now He Wants to Redeem Them(https://www.wired.com/story/his-writing-radicalized-young-hackers-now-he-wants-to-redeem-them/)を読んでみてほしい。
最初の読後感は、「もっと若ければ」という情けないものだった。すぐに大江健三郎著『遅れてきた青年』を思い浮かべた。残念ながら、筆者はコンピューター技術についてゆけない。このサイトを自分で立ち上げたのは事実だが、ネット上のガイドにしたがってつくっただけだ。
「もっと若ければ、もっといろいろなことがやれたのに」という嘆息しか出ない。何年か前に、あのエドワード・スノーデンが日本で働いていたころ、夏休み期間中にインドにハッキングの講習会を受講していたことを知り、もし自分が大学生であったら自分もそうしていたかもしれないと想像した。
そんな筆者だから、『リトル・ブラザー』は大いに刺激的だった。アメリカはいい意味でも悪い意味でも、「進んでいる」と思った。ここでは、この本の最後に掲載されている「参考文献」の内容の一部を紹介したい。まだまだ将来が開かれている若者に知ってほしいからだ。
『暗号技術大全』
ブルース・シュナイアー著『暗号技術大全』が紹介されている。アマゾンをみると、2003年5月に刊行された日本語訳が7319円で買える。筆者は購入する気はないが、たぶん「暗号」問題の基本はこの本を読めば、大方理解できるだろう。
筆者には、「暗号」についていまでも忘れられない思い出がある。それは、高校生時代、渋谷にある大盛堂書店という全階書籍を売っているような店で、たまたま「暗号関連書籍はどこに置いてありますか」と店員に尋ねるサラリーマン風の男に出くわしたというものだ。毎週、かかさずこの書店に出かけては、本を漁っていた筆者にとって「暗号本」を探す男という存在が妙に印象に残ったのである。だからとって、自分でも暗号本を物色しようとしたわけではない。ただ、暗号というものの存在とその重要性が何となく高校生の自分に心強く響いただけの話だ。爾来、筆者はずっと暗号を気にかけてきた。ドイツの自動暗号機「エニグマ」やそれを解読したアラン・チューリングに惹かれたきたのはこのためであると思う。
プリンストン大学の風変わりな工学教授、エド・フェルテンとアレックス・J・ホルーダーマンが運営をはじめたFreedom to Tinker(いじくる自由)というブログが紹介されている。まだ運営されているようなので、https://freedom-to-tinker.com/にアクセスしてみるのもおもしろいかもしれない。セキュリティ、盗聴、暗号などの関する記事が読める。
電子フロンティア財団
Electronic Frontier Foundation(EFF)はドクトロウが4年間勤務していた。個人の寄付を使って、インターネットで個人の自由や言論の自由や適正手続きなどが守られるようにすべく活動する慈善会員組織(https://www.eff.org/)だ。「EFFの巨大で深いウェブサイトには一般向けの有用な情報も掲載されている」というから、ぜひアクセスしてみてほしい。
自由人権協会(American Civil Liberties Union)というのもある。日本にも支部がある。公益社団法人・自由人権協会(http://jclu.org/)だ。Public Knowledgeという組織もある。そのサイト(https://www.publicknowledge.org/)にアクセスすれば、いまなら司法省によるグーグル独禁法違反提訴について考えるヒントが得られるかもしれない。
2020年10月22日にアクセスしようとすると、“Sorry! This site is experiencing technical difficulties”という表示が出たStudents for Free Culture(https://freeculture.org/)という組織もある。
いずれもドクトロウが「支援する価値がある」としている団体だ。
こうした複数の組織がプライバシーや人権の保護に積極的に取り組んでいることを知るにつけて、日本の現状に不安をいだくようになっている。筆者のようにいつ死んでもおかしくない者にはあまり関係ないが、若者の将来を想うと、できることはしておきたい気がしている。
クリプトーム
最後に、この本の英語版が刊行された2008年当時、ドクトロウが「もっとも本物の禁断の知識に触れたいなら」として紹介しているのが「クリプト―ム」(Cryptome Organization)だ。そのサイト(https://cryptome.org/)にアクセスすると、たくさんの興味深い情報に出会うことができるだろう。
日本に同じようなサイトがあるかどうか、筆者は知らない。いずれにしても、筆者自身、まだまだ学ばなければならぬことが多いと痛感させてくれた一冊だった。ゆえに、ここにその内容ではなく、参考文献を紹介した次第である。
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