プーチン新政権への展望
プーチン新政権への展望
塩原 俊彦
本日、ロシアでは大統領選が実施され、プーチンが選出されることになるだろう。2000年5月に大統領就任後、2期大統領を務め、その後、首相となったプーチンは、2012年5月に大統領に返り咲き、3期目の途上にあった。3期目からは任期が6年に延長されたから、2018年5月からもう6年、大統領を務めることになる。
The Economist(March 17th 2018)によれば、プーチン大統領誕生以前の生活になんの記憶もない、プーチン大統領就任後に生まれた子どもの数がすでに2800万人ほどになるという。かれらのことを “Puteens”と呼ぶのだそうだ。1991年12月に崩壊したソ連のことを知らない人まで含めると、ずっと多くのロシア人が新しい時代を生きていることになる。
だが、プーチン政権が長引くにつれて、ロシアはソ連時代に逆行しようとしているのだろうか。そう単純な話ではない。Puteensはかれらなりの生き方を模索しているのであり、ある意味でしたたかさをのぞかせている。
その一つが情報にかかわっている。実は、わたしの最初の単著は『探求・インターネット』というものであった。その後、「サイバー空間と国家主権」という論文を『境界研究』で公表してもいる。つまり、日本経済新聞や朝日新聞の記者として、情報にかかわってきた以上、ずっと情報問題と格闘してきたのである。その意味で、今日のロシアの情報にかかわる変貌ぶりは実に興味深い。
具体的な話をしよう。The Economistによれば、18~24歳のロシア人の90%以上が毎日、電子情報にアクセスしているのに対して、40~54歳のその割合は50%を割り込み、55歳以上の同割合は15%にすぎないという。その結果、18~24歳の若者の70%強が電子情報としてニュースを得ているのに対して、55歳以上の9%しか電子情報によるニュース取得を実践していない。40歳以上の人の9割強は相変わらずテレビからニュースを得ている。
これがなにを意味しているかというと、プーチンが大統領就任以降、やってきたテレビ局支配があまり効果をもたなくなりつつあるということだ。Rureensはインターネットを通じて、ロシアが海外からどうみられているかをよく知っている。たとえばBBCを、インターネットを通じてみることで、英語の勉強をしながら知見を広げることができているのである。
そんなPuteensは必ずしも反プーチンというわけではない。かれらの多くは、EUには移民問題やテロの恐怖があるし、米国には学校ですら銃撃戦の危険があることをよく知っている。ロシアはプーチンのおかげで、少なくともかなり安全で、しかも以前よりも経済水準は向上した。なによりもお金さえあれば、行列しなくてもほしいものが買えるようになっている。加えて、中国よりはインターネット上の「自由」もある。こう思うPuteensからすれば、プーチンに投票するのが当たり前ということになる。
ディスインフォメーションの効果をあげやすくする状況
こうした状況は米国でも同じである。2017年に刊行されたC・サンステイン著#Republicによると、2016年に実施された世論調査において、米国の大人の62%はソーシャル・メディアでニュースを得ており、18%は頻繁にそうしているという。つまり、5人に1人はもはや新聞やテレビから情報を得ていないのだ。さらに、Twitter利用者の59%、Facebook利用者の66%はそれらのプラットフォームにあるニュースを受け取ることで事足りていると考えている。この時期のFacebook利用者の割合は67%にのぼっていたから、米国の大人の44%はFacebookからニュースを得ていることになる。もちろん、新聞やテレビからもニュースを得ているかもしれないし、マスメディアの運営するサイトからも情報を得ているかもしれない。それでも、多くの人々がFacebookやTwitterなどのソーシャル・メディアから情報を得ている現象は「新しい波」として注目しなければならない。
重要なことはこうした状況が「意識的で不正確な情報」であるディスインフォメーションの伝播を大いに助けているということである。ロシアでも米国でも、特定の人々にねらいを定めるかたちでのディスインフォメーション工作が可能となっているのだ。その結果、米国ではトランプが大統領選で勝利したし、ロシアでもプーチン当選に寄与しているはずなのである。
とくに、ロシアの場合、テレビによるニュースもプーチン政権に有利な情報操作が加えられているから、プーチンに反感をもったりプーチンに疑念をもったりすることがなかなか難しい環境をつくり出していることになる。
日本への懸念
おそらく日本の状況も米ロとあまり変わらないだろう。多くの若者は新聞もテレビも見ない。電子情報として目にするニュースは断片できで、それゆえに「不正確」なものが多い。Dishonest Abeによるディスインフォメーションはじわじわと国民に伝播するものだから、Dishonest Abeの本質はなかなか理解されない。そうしているうちに、衆議院選が実施され、全国民が騙されてもDishonest Abeの本性はなかなか暴かれなかったのだ。
日本の場合には、朝日新聞の勇気ある報道によって、Dishonest Abeの倫理の欠如は明白になったが、ロシアの場合にはプーチンによるディスインフォメーションを糾弾する声がまだ少ない。もちろん、日本でもDishonest Abeを辞任に追い込まない限り、こうしたディスインフォメーションによる情報操作は終わらない。SNS時代を迎えたことで、ポスト・安倍も情報操作を仕掛けてくる公算が大きい。
わたしが生まれてはじめてmanipulationという言葉を耳にしたのはいまから40年ほど前のことだった。九段会館で実施された岩波文化講演会で、加藤周一が情報操作(manipulation)の危険について注意喚起していたことをいまでもよく覚えている。既存のマスメディアによる情報操作も以前から問題であったのだが、SNS時代を迎えて、この問題は明らかに深刻さを増しているのだ。だからこそ、ディスインフォメーションという、比較的新しい概念に留意してもらいたいと心から願っている。その対策を教育することが急務なのだ。
ロシアの展望
プーチン4期目はポスト・プーチンを占う期間でもある。ただ、中国の習近平が憲法改正によって死ぬまで国家主席のポストを維持できるようにしたことで、プーチンも同じ道を模索するかもしれないという疑念がわく。もしそうなれば、ポスト・プーチンは不要となる。いま現在、ポスト・プーチンになりうる人物は見当たらない。そうであるとすると、プーチンがそのまま大統領に居座る可能性もあることになる。
まだそうなるかを判断することは難しいが、今回の大統領選で投票率、得票率とも70%を上回れば、その圧倒的勝利をもとにプーチンも習近平路線を踏襲可能性が増すだろう。どうせインチキの数値を公表するだけだから、実際の投票率と得票率との兼ね合いのなかで、プーチン(形式上は中央選管)がどんな数値を公表するのかが注目される。
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